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目が覚め最初に見たのは、豊満な乳房……の様に見える胸板。
誰のかは、言わずもがな。


「お?起きたか。」

「師範…」

「ダッセェ。地味にダセェ。ま、図体がこじんっまりしたのは可愛いかもしれねぇがな。」

「……嬉しくない。」


ムッ、とする俺を他所に、師範はしのぶを呼びに病室を出ていった。
自分の体が今、どんな状態なのかを確認する為に腕を上げれば手の先から病衣がダラリ、と折れて垂れている。


「…短い。」


それでも、手足にしっかり感覚がある。
体も縮んでるから、寝台から床までいつも以上に距離を感じるが椅子があれば登り降りは出来そうだった。
物は試しだ、と椅子へ移動する。


「紫音くん?何、しているのですか?」


優しげな声色、なのにどこか刺々しく聞こえた声の持ち主はしのぶで。
目が合えば、ニッコリ、と微笑みという名の仮面を見せられた。


「しのぶ…」

脱走(そんなこと)しようとするくらいですから、怪我の方は大丈夫そうですね。」

「なら、退院?」

「そんなわけないじゃないですか、縮んだその体を治さなければならないんですよ?一日五回、薬飲んでくださいね。」


内服回数に、俺は眉間に皺を寄せた。
ニッコリ、笑ってはいるが、しのぶのそれは心からのものではない。
そんなことは、前々から気付いていた。
なまじ、耳が良いから。
内服の指示も終えたから、と病室を出て行こうとするしのぶが、そうそう、と思い出したように振り返った。


「後で、たんぽぽくんの所へ行ってあげてください。」

「たんぽぽ…くん?」

「君が言ったんですよ?たんぽぽって。では、伝えましたからね?」


お大事に、と言い残して、今度こそしのぶは病室から出ていった。


「たんぽぽ…」


その単語で思い浮かぶのは、たんぽぽ頭の善逸だった。
そうだ。
一緒に蜘蛛にされそうになっていたんだった、と思い出せば居ても立ってもいられず、俺は椅子を伝って床へ降りた。
廊下に顔を出し、音を探る。


「善逸…どこ。」


目を閉じ、聴覚に集中する。


「五回!?五回飲むの!?一日に!?」

「…見つけた。」


捉えた善逸の声を頼りに、俺は善逸のいる病室へと走る。
といっても、歩幅の関係上走ってはいるが普段の歩きと大した変わらない。
普段の一歩を、今の俺はふた蹴りで進んでいる。

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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時

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