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「俺…嫌われてんのかな。」
「どうして?」
「普通、置いていくか?仲間を、道端に。説得しない?仲間なら。」
「その"仲間"の中に、俺は入ってないの?」
そう聞くと、うん、と善逸は首を縦に振った。
「だって、紫音は…っ。」
「何?」
「っ……なんでもないっ。」
善逸は何かを言いかけたが、口を閉じてしまった。
君にとって俺は、どんな存在?
……その乱れた心の音の答えを、俺にくれたらいいのに。
「二人で説得してくれたらさ、行くからね俺だって。それなのに二人でさ、恐い山の中にスタコラサッサですか。置き去りにされた俺の気持ちを。」
そう言う善逸に、うこぎが励まそうとチュンチュン鳴いている。
けど、俺にも善逸にもその言葉が分からない。
通訳を頼める炭治郎は山の中で、同業の紫衣奈も今はこの場にはいない。
「はぁ…いいな、お前は気楽で。何も分からないよな、人間の事なんて。」
馬鹿にされた、と受け取ったのか、話を分かって貰えなかったからか、うこぎは善逸の手を嘴ではさもうとした。
それを阻止するように、俺は善逸の手に自分のを重ねた。
次の瞬間、俺の手の甲の皮は嘴によって挟まれた。
挙句、そのまま引っ張られている。
「つっ…。」
「紫音っ!?やめろよ!お前、可愛くないよ!ほんと、そういうとこ!」
指を差して雀に苦情を呈する善逸に、負けじとチュンチュン激しく鳴くうこぎ。
「もう、ほんと!全然可愛くないっ!鬼の禰豆子ちゃんが、あんなに可愛いのに!雀のお前が凶暴じゃ!あ゙ーーーーーーっ!!」
「何、どうしたの?」
そう聞けば、ビュン、と音でも鳴りそうな程の勢いで善逸は俺を見てきた。
「あいつ、禰豆子ちゃん持ってったーーーーーっ!!」
タンタンタンタン、とその場で駆け足をする善逸だが、俺に背を向けて走り出すまでには至らない。
「紫音!禰豆子ちゃん、炭治郎が持ってっちゃったよっ!!紫音!」
禰豆子を求めている善逸は、都合よく俺の名前をも呼ぶ。
今はそれでも甘受しよう、と胸中に渦巻くものを飲み込む。
「分かった、俺たちも行こう。」
「ありがとう、紫音!うおぉぉぉっ!禰豆子ちゃぁぁんっ!!」
そう言って走り出した善逸は、何か叫んでいた。
が、山というものは登れば登るほど空気が薄くなる。
威勢よく走っていた善逸も、今は肩で息をしていた。
禰豆子、炭治郎と名前を呼ぶが、辛うじて音になるだけだった。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時