検索窓
今日:3 hit、昨日:64 hit、合計:9,830 hit

31 ページ35

「善逸…置いてなんかいかないよ、大丈夫。遅れたらまずいから、行こう。」


安心させようと俺は場にふさわしくないのを承知で、善逸に微笑む。
そのまま善逸の俺より小さい手をギュッ、と握って、炭治郎と伊之助の後を追う。
……禍々しい音を出す山の目の前なのに、俺の胸は不釣合いな音を奏でていた。

山の麓まで近づけば、一人の隊士が倒れていた。
既に戦闘後らしく、日輪刀を手にしているものの傷を負っていた。


「助けて…っ!」

「隊服を着てる!鬼殺隊員だ!何かあったんだ!」


炭治郎と伊之助がその隊士に近づき、何があったかを聞き出そうと声をかけるとその隊士は宙を舞った。


「繋がっていた…っ、俺にもっ!」


助けてくれ、と叫びを残し、その隊士は何かに引っ張られるようにして山へ消えていった。
その光景を見た善逸は、口を両手で抑え驚きと恐怖で声も出せないでいた。


「俺は行く。」

「俺が先に行く。お前は、ガクガク震えながら後ろを着いてきな。腹が減るぜ…!」

「伊之助…」

「腕が鳴る、だろ?」


震えながらまた座り込んでしまった善逸だったが、言葉の訂正をする余裕は少しばかりはあるようだ。
そして、ハッハー!、と声を上げたかと思うと、伊之助は山へ向かって走り出した。
その後を炭治郎が追う。


「あ…」

「行っちゃったね、二人とも。追いかける?」

「ごめん…無理…ホント、怖くてさ……」


俺を見上げ、眉尻を下げた今にも泣きそうな善逸。
そんな善逸を、また両膝を地面につけて抱きしめる。


「善逸が行けるようになるまで、俺は待ってあげる。」

「紫音……」

If you don't want to go,you don't have to.(行きたくないなら、行かなくていいよ。)
If it's for you,who I love,I'll do the same.(大好きな君のためなら、俺もそうするから。)

「……分かんないよ、異国語。」

ごめん(ソーリー)、善逸。」

「だから、わかんないってば……馬鹿。」

「聞こえてるよ、善逸。」

「……ずるいよ。」


そう言ったっきり、善逸は喋るのをやめた。
それでも、音は素直に俺に届く。
恐怖の音に混じってる、小さな恋の音。
聞き間違いなんかじゃ、ないといいな。

君の分からない言葉でしか、好きって言えない狡い俺をどうか許して。

32→←30



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
21人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。