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「善逸…置いてなんかいかないよ、大丈夫。遅れたらまずいから、行こう。」
安心させようと俺は場にふさわしくないのを承知で、善逸に微笑む。
そのまま善逸の俺より小さい手をギュッ、と握って、炭治郎と伊之助の後を追う。
……禍々しい音を出す山の目の前なのに、俺の胸は不釣合いな音を奏でていた。
山の麓まで近づけば、一人の隊士が倒れていた。
既に戦闘後らしく、日輪刀を手にしているものの傷を負っていた。
「助けて…っ!」
「隊服を着てる!鬼殺隊員だ!何かあったんだ!」
炭治郎と伊之助がその隊士に近づき、何があったかを聞き出そうと声をかけるとその隊士は宙を舞った。
「繋がっていた…っ、俺にもっ!」
助けてくれ、と叫びを残し、その隊士は何かに引っ張られるようにして山へ消えていった。
その光景を見た善逸は、口を両手で抑え驚きと恐怖で声も出せないでいた。
「俺は行く。」
「俺が先に行く。お前は、ガクガク震えながら後ろを着いてきな。腹が減るぜ…!」
「伊之助…」
「腕が鳴る、だろ?」
震えながらまた座り込んでしまった善逸だったが、言葉の訂正をする余裕は少しばかりはあるようだ。
そして、ハッハー!、と声を上げたかと思うと、伊之助は山へ向かって走り出した。
その後を炭治郎が追う。
「あ…」
「行っちゃったね、二人とも。追いかける?」
「ごめん…無理…ホント、怖くてさ……」
俺を見上げ、眉尻を下げた今にも泣きそうな善逸。
そんな善逸を、また両膝を地面につけて抱きしめる。
「善逸が行けるようになるまで、俺は待ってあげる。」
「紫音……」
「
「……分かんないよ、異国語。」
「
「だから、わかんないってば……馬鹿。」
「聞こえてるよ、善逸。」
「……ずるいよ。」
そう言ったっきり、善逸は喋るのをやめた。
それでも、音は素直に俺に届く。
恐怖の音に混じってる、小さな恋の音。
聞き間違いなんかじゃ、ないといいな。
君の分からない言葉でしか、好きって言えない狡い俺をどうか許して。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時