28´ ページ32
厠から戻ると、"滅"の字を背負った紫音がいた。
「あれ?紫音、なんで隊服?」
「任務。」
振り返りながら紫音は、何でもないように言ってきた。
あれ?医者から、二週間は安静って言われてなかった?
「え!?もう!?いやいやいや、だって足捻挫って!完治してないんじゃない!?」
「完治はしてないよ。後七日は休まないとならないらしいから。」
だったら!、と紫音を心配する俺の頭を、ぽすぽす、と撫でる。
あ、撫でられた。
嬉しっ!
……じゃない!
「サンキュ、善逸。大丈夫だよ、現場近場だし。」
は?近場だからって、完治してない足で行くわけ?
いや、仕事だから行かない選択肢はないに等しいけどね!?
駄目だよ安静にしてなきゃ、なんて俺が言えるわけない。
「無理…するなよな。」
そういうしかなくて。
六尺程上にある紫音の顔を見ようとすると、差で上目遣いになる。
……待って?なんで、そこで心臓高鳴るの!?
男の俺に上目遣いされても、普通は嬉しくないんじゃない!?
ないよないない!
派手な額当てをつけて、紫音は日輪刀を背中へ背負った。
「行ってくるよ。」
ふわっ、といい匂いに包まれたと思ったら、俺は紫音に抱きしめられてて。
距離……おかしいって!
心臓うるさっ。
絶対聞かれる…っ、聞かれてるっ!
ずっと続くと思ったその時間は、一瞬の出来事だったらしくて紫音は俺から離れて部屋から出ていった。
行ってらっしゃい、って言うの忘れたって思わず追いかけたんだよね。
追いかけない方が良かったけど。
廊下で炭治郎と抱擁してるとこだった。
紫音に抱きしめられた部屋に戻って、引き戸も閉めた。
そのまま壁に寄りかかって、ずるずる〜って座り込んだ。
「……そうだよ、紫音は粛清すべきなんだよ。俺の結婚を邪魔したから守ってもらってるだけなんだから。炭治郎と同じように即粛清だ。」
一人で呪詛を吐くように、ブツブツ俯いたまま呟く。
箱を守ったのも禰豆子ちゃんの為で。
炭治郎と仲良くするのも、禰豆子ちゃんの為……なんだ。
「…俺は、禰豆子ちゃんに一目惚れしたんだ。」
口に出せば、胸の痛みもモヤモヤしたのもなくなると思ったのにさ。
余計にズキズキするし、もっとモヤモヤになった。
「紫音の、馬鹿……」
紫音に会ってから、俺…なんかおかしい。
この胸の痛みの名前なんて、知ってる。
ただ、認めたくないだけ。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時