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ゲームクリアの七度目の朝、俺は麓まで下山してウィステリアの香りに包まれた。
沢山いたはずのチャレンジャーは、片手で数えられるほどに減っていた。
「耳が良いだけじゃ無理、か。」
守れなかったチャレンジャーたちに黙祷を捧げていると、黒髪の男の子と白髪の女の子が出てきた。
生き抜いた数人をおかえり、と迎え入れ、おめでとうと祝ってくれた。
隊服の為に採寸して、手の甲に何か細工をされた。
連絡手段用として、一人に一羽鎹鴉なる鳥が着くと説明し白髪の女の子が手を叩くとそれぞれのところへ鴉が飛んでいった。
「……から、す?」
「ホー。」
「……どう見ても、梟じゃん。」
周りの合格者には鴉なのに、俺だけなぜ梟?
俺が、ホワイ?、と首を傾げれば鏡の様に俺を真似て小首を傾げた。
……可愛いからいいか。
黒髪の男の子が、鬼の頸を斬るための刀"日輪刀"の素材となる玉鋼を選ぶ為に台の周りに合格者を集めた。
俺は迷うことなく、並んだ中の一番大きな玉鋼を選んだ。
理由?
合格者の中で、俺が一番大きかったから。
日輪刀は刀鍛冶によって造られ、時間としては十〜十五日はかかるという。
刀が届くまでは、鍛えよ、ということらしい。
全てを終えた俺は、ウィステリアの山を後にした。
───
「……お前、名前ある?」
「仕エルノハ貴方ガ初メテナノ。名付ケテクダサル?」
「……女の子の梟…
「イイ名前ダワ、気ニ入ッテヨ。」
喋り方がどこか良いとこのお嬢様のようで、気位の高い女の子なのだと思った。
高貴な紫を使って、紫衣奈と名付けた。
「俺のことは、紫音、でいいよ。」
「ワカッタワ、ヨロシク紫音。」
「ん、よろしく。」
そう返せば、静かに俺の肩から飛び立った。
紫光の空に梟一羽。
それを見送り、俺は疲れた体に鞭を打って宇髄とその嫁たちが待つ邸へと足を動かす。
───
邸に着いた頃には、既に辺りは真っ暗で鬼の時間となっていた。
嫁三人が寝てるかもしれない、とそっと引き戸を開けようと手をかける。
「戻ったか、紫音。」
「師範……ただいま。」
玄関横の壁に背を預け、腕組みをして地味な着流しを着た師範が立っていた。
「よく、生きて戻っ「疲れた……」
緊張の糸が切れた、とはよく言ったものだ。
安心したら、意識が散歩に出かけてった。
人生二度目の、気絶。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年6月1日 18時