第一首 yb×hk ページ1
なんて寒いんだろう。
いや、文句は言ってはいけないんだが。
『泊めていただけませんか』
こんな俺の無理を聞いてくれたこの家の持ち主に、
心の底から感謝するべきだ。
だけど、お世辞にもこの小屋は綺麗とは言えない。
ところどころ穴は空いてるし、というかこの小屋は稲を収める小屋だろう。
そうだ、寝てしまおう。
寝てしまえば、寒さなんて感じなくて済む。
俺は家主に渡された毛布もどきの布にくるまり、目を瞑ろうとした。
_と、その時。
今にも壊れてしまいそうな扉を、誰かが叩く音が聞こえた。
こんな夜に、一体誰だ?
扉を開けると、そこには一人の青年が立っていた。
俺より少し背は小さいが、たぶん歳は大して変わらないように見える。
この村の青年だろうか。
たまに口を開けた時にチラリと見える八重歯が、何よりも印象的だ。
「_これ、」
彼から差し出されたものは、ぶ厚い毛布だった。
「毛布じゃないか…、」
「使ってください」
ついつい毛布のほうへ行っていた視線を
彼のほうに合わせると、
俺の視線に気づいた彼は慌てて目を逸らした。
「こんなに寒いのに毛布なんて。」
「寒いからこそ使うんじゃないですか」
それもそうだ、と納得しつつ、彼から毛布を受け取る。
「それに、あなたが冷えてしまうのは嫌ですから」
「_え、」
「明日、また毛布を受け取りに来ます」
最後は早口で話すと、彼は走っていってしまった。
ほのかな月明かりに照らされた彼の背中は暗闇に消えていった。
扉を閉め、彼から受け取った毛布にくるまる。
『あなたが冷えてしまうのは嫌ですから』
_これは決まり文句なのだろうか。
それとも…
しんしんした寒さが小屋の隙間から入り込んでくるような気がする。
毛布からはみ出た服の袖が、夜露によってしっとりと濡れ始める。
_明日、彼が毛布を受け取りに来たら聞いてみよう。
あの言葉は、本当のものなのか。
『秋の田の かりほの庵の 笘を粗み
わが衣手は 露にぬれつつ
天智天皇』
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作者名:餅もち子 | 作成日時:2017年4月14日 16時