57 ページ9
窓の外を見て、松川が「何時？」と時計を探した。19時になろうとしている。
「もうこんな時間か。」
「早いな」
「終わんなかった分は通話で」
ん、と短く返事をして席を立つ。財布を持って店の奥まで行くと、二人組の一人と目が合う。会釈をして「お会計で」と店主らしい男性に声を掛ける。
「課題は進んだかい？2200円だけど、2000円でいいよ」
「大分捗りました。いやいや、そんなちゃんと払わせてください」
「そうかそうか。じゃあ2200円で、200円のお釣りね」
「あ、」
「とっておきなさい」
今日だけだから、とにこやかに言う男性に負け「ありがとうございます」と伝える。俺の分の荷物まで持った松川がこちらに来て「また来ます」と笑顔で言う。
「ありがとうございました」
「ご馳走さまでした」
静かに伝え合い、店を出た。
「いい店だったな」
「な。マスターもいい人」
「ね。探してくれてありがと」
どーいたしまして、と笑う松川が俺の手に指を絡ませる。それを握り返し、遠回りで帰る。
「そいえばケータイ鳴ってなかった？」
「そうだった」
松川に言われて思い出し、制服のポケットからスマホを取り出す。姉からだった。
『ははとちち今日は同窓会だってー。ごはんないから』
「なんだこの文章」
笑いながら松川に見せれば、松川も「オネーチャンらしいな」と笑う。
「メシないなら、どっかで食ってくか？」
「だな。松川ん家は連絡しなくていいの？」
「するかな」
ポケットからスマホを取り出した。俺は店を調べる。
「ん。どこにする？」
「何食べたい？」
「肉」
「カテゴリ広過ぎ」
レストランなどが載った口コミサイトのカテゴリを「肉料理」に設定する。絞り切れずずらっと店が出る。
「にく、何肉？」
「牛かな」
「ステーキだな」
「最高」
松川の少ない相槌に合わせて提案し、なんとかステーキに決まった。松川もメールを打ち終わったらしい。
「ステーキとかあるファミレスでいい？」
「俺奢るから好きな店にしなよ」
「いや、それはダメだろ」
「いーって」
松川も携帯をいじって店を探している。その中でいい店でもあったのか、俺のスマホの横に自分の携帯を並べた。
「そんな高くねぇけど、ここ良さそうじゃない？」
「どれ？」
ここ、と携帯を操作し、目当ての店のページを開く。カジュアルなレストランで、家族連れからカップルまで、グラム数を指定して注文できる店だった。
「そこにしようか」
「決まりな」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シャバ僧 | 作成日時：2022年6月23日 21時
