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少しの間があって、先にコーヒーとカフェラテが運ばれてきた。松川が話し始めるのを待ちながら、コーヒーを口に含む。癖がなく飲みやすい。
「いや、本人が言ってねぇことを俺が言うのは違ぇな。」
「第三者登場かよ。気になる」
「野次馬やめろ」
苦笑いした松川もカフェラテに口を付けた。
「うまいね」
「ね。いい店だ」
「ありがとう」
ケーキをトレーに乗せて持ってきた男性が言う。反射で振り返り、二人とも照れ笑いする。
「若いね、高校生かい?」
「はい。すぐそこの青葉城西です」
「あそこか。好きにしていいから、ゆっくりしていきなさい」
「ありがとうございます」
笑顔で話し掛けてくれたことが嬉しくて顔が綻ぶ。そんな俺を見ている松川も笑顔だ。
「どした?」
「いんや、幸せだなって」
「なんだそれ」
言いながら少し恥ずかしくなる。松川がこんな何気ない時間を楽しんでいるということが嬉しい。
「Aは今どんな気持ち?」
「幸せだよ」
「そか」
松川も少し照れ臭そうに笑う。フォークでガトーショコラを一口大に切り、添えられているクリームを少しのせ松川に差し出す。
「食う?」
「ん」
テーブルの向こうから松川が身を乗り出し、フォークに乗ったガトーショコラを食べた。「うま」と言いながらチーズケーキを一口分フォークに取り、俺の口元へ運ぶ。
「ほい」
「さんきゅ」
同じように俺もそれを口にし、味わう。重過ぎない濃厚さがいい。
「うまいね」
「ね。フツーにここ好き」
「俺も」
二人でゆっくりとした時間を過ごす。今までにない過ごし方で新鮮だ。
「付き合うってこんな感じなのな」
「Aは女子とも付き合ってなかったもんな」
「そりゃね。好きじゃないのに付き合えるほど器用じゃない」
「耳が痛い」
顔を歪める松川に苦笑いする。
「別に松川を責めたわけじゃないよ」
「そうなんだけどね」
テーブルに肘を突き、松川を見る。店の奥に視線を送っていた。
「どした?」
「折角なら課題終わらせてぇじゃん」
「あー、一応聞くか」
すみません、と少し声を張ると店の奥からひょっこりと先程の男性が顔を出した。
「課題やるのにシャーペンとか使ってもいいですか?」
「気にしないでいいよ。自分の家と思って過ごしなさい」
「ありがとうございます」
笑顔で返しながら、二人揃って今日配られた課題を出し、わからないところを教え合った。
終わる頃、外は薄暗くなり街灯が灯った。スマホが振動する。
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作者名:シャバ僧 | 作成日時:2022年6月23日 21時