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岩泉side
松川とAの雰囲気がいい、と2年の間でも話題になっていた。バレー部全体が知ることになっただろうその関係を咎めるヤツは誰もいない。二人の信頼の厚さがよく出ている。
松川は3年ミドルらしい働きを今日のゲームでもしていたし、Aはその目を活かして二軍のプレーを見ていた。
アドバイスは的確そのもの。決して無理はさせないが、それでも着実にハードルを上げていく。
昨日はAと松川のクラスの前に国見がいた。懐いているのかは分からないが、辞書を借りに来たと言う話だった。それを見て松川が不機嫌になっていた。
「岩泉さん」
「なんだ」
「松川先輩、なんか俺のこと睨んでませんでした?」
1限が終わったあと、俺を廊下で見つけた国見に話し掛けられた。辞書を返したあとらしい。
「気にするな。ちょっと機嫌が悪かったんだろ」
「そうなんですかね」
それでも腑に落ちないのか口を尖らせる。
「松川も悪いヤツじゃない。そんな心配すんな」
努めて励ますように笑えば、国見は引き下がりクラスへ戻っていった。
「国見ちゃん、だいじょぶそ?」
「大丈夫だろ。」
ならいいけど、とクラスに戻って及川と話す。溜息を吐かれた。
「なーんか、Aちゃんってメンヘラ製造機っぽい感じしない?」
「つーより、誰にでも優しいからだろ。相手が不安になるんじゃねぇか?」
「ふーん」
だいぶ良くなった捻挫を筋が硬くならないように回しながら及川は聞いていた。チラッと俺を見る。
「岩ちゃんも大概だよね」
「なにがだ」
「まっつんに宣戦布告したんでしょ?」
「覚悟しとけって言っただけだ」
それのことだよ、と言いながら次の授業の準備をする。俺も席に戻って教科書を出す。
そんなやりとりをしたあと、すぐこれだ。
ゲーム間の休憩で花巻と松川がAにちょっかいを出している。Aは構わずペンを走らせていたが、書き終わると松川がAの頭を撫でていた。
「岩泉さん!」
「あ?どうした?」
金田一に呼ばれそちらに向き直って意識を逸らした。正直助かった。
自主練も終わり、部室に戻るとAたち以外は静かだった。俺も特に話すことはないし、及川も鼻歌すら歌っていない。
それをAがイジれば及川はうるさくなったが、すぐに静かになる。
「岩泉どーした?」
Aが話し掛けて来た。何でもないと言おうとしたが松川に遮られた。
「岩ちゃん」
「あ?」
「出てたよ、声に」
溜息を吐いて頭を抱えた。
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作者名:シャバ僧 | 作成日時:2022年6月23日 21時