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「溶けるよ」
ふたり分の体温で隈なく包まれたアイスの心配をするが、カップアイスは少し溶けた方が食べやすい。とはいえ、スーパーからの道もそこまで近い訳ではないし、きっとぐずぐずになってしまう。
「どうした？」
何も言わず、ただ俺の手とアイスを握り込んだまま、一静は俯いている。
一静の手が、離れた。
「ほれ、食うんだろ？」
「ん」
頭の中で色んな言葉を上げては消して、見付からなかったのか、諦めたのか俺の手からアイスを受け取った。
なかなかどうして、こいつはこんなにも。
「一静」
「なに」
顔を上げて、やっと俺を見た一静を抱き締めてやる。細身だが、しっかりとした筋肉のついた腕や胴が、少し震えた。
「悔しいな」
俺の肩口が少しずつ濡れていく。声は必死に押し殺して、過呼吸になるんじゃないかと心配になる程だ。
「ごめん」
少しの間そうしてから一静が小さく、嗚咽交じりの声で言うのが聞こえた。束の間息が詰まるが、それを抑えて、冷静に聞く。
「それは、何に対する"ごめん"？」
「……みっともないとこ見せた」
「今泣いてること？」
頷いたのがわかって、頭を撫でてやる。このデカい犬のような恋人が、堪らなく愛おしい。
「そうしたいんだなって思ったから、俺はそうなるように誘導しただけだよ」
「あー、Aにゃ敵わねぇな」
「それは俺も同じだよ」
身体を離して向き合う。ゴシゴシと目を擦りながら鼻を啜って、俺をチラリと見てきた。
「次は勝つ」
「うん」
「はぁ、アイス食う」
「風呂の用意するな」
ん、と短く返事をして一静はリビングへ入った。リビングのドアが閉まる音を背に、風呂場へ続くドアを開ける。
みんな、帰ってからまた泣くのだろうか、とふと考える。気丈に振る舞って見せていた及川も、岩泉も。いつも通りでいて見せた花巻も。あいつらも、部屋に入って荷物を置いた途端、もしくは玄関で靴を脱いだ途端。脆く、弱く、糸が切れたように。
洗い終わった浴槽に、少し熱めの湯を張る。栓がしっかりとされているのを確認して、風呂場を出た。
テレビも点けず、電気も点けないまま、引っ越してきた頃と比べたら長くなった陽が細々と入るだけの薄暗いリビングで、一静はアイスをただ眺めていた。
「食わねぇの？」
「いや、食うよ」
「もう食えたもんじゃねぇだろ、それ」
「かもな」
冷蔵庫の冷凍室から新しいアイスを出す。一静の隣に腰掛け、その手にあるのと交換する。それを見た一静が苦笑いした。
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シャバ僧(プロフ) - ひなさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！頑張って完結まで書き切りますので、今後ともよろしくお願い致します！ (2022年9月9日 17時) (
レス) id: 97accd6b89 (このIDを非表示/違反報告)
ひな - コメント失礼します。この作品すごく好きです！画像もかっこいいですね。応援してます！ (2022年9月9日 0時) (レス) id: c76bd02e2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シャバ僧 | 作成日時：2022年9月2日 21時
