280 ページ33
ホイッスルが響く。ドッと、応援席から歓声が湧く。
烏野とのフルセットを制したのは、
コートへ駆けていく一静やベンチメンバーと、コートの真ん中で喜ぶレギュラー。みんなの笑顔を見て、やっと呼吸が楽になったように感じる。
一静に目を遣ると、俺に向けてピースしていた。微笑んで、同じように返す。
「整列しよう」
及川が静かに整列を促し、選手全員がエンドライン上に並んだ。スコアブックとバインダーをベンチに置いて、監督とコーチに倣い、烏野の方へ身体を向ける。
ホイッスルが鳴り、澤村の声が響いた。一礼する。
選手たちが握手を交わす。花巻の相手は10番くんだったが、彼は手を出したものの花巻の手を握れずにいる。見兼ねた花巻がその手を握った。
応援席への挨拶を済ませ、みんなが戻ってきた。
「おつかれ」
「ありがとう！」
「すぐ着替えろよ」
溝口さんとふたりでセカンドユニフォームを手渡していく。
「"ひとりだけ上手くても勝てないんだよ、ドンマイ！"って、言ってやるんじゃなかったっけ？」
岩泉がずいぶん前のネタを引っ張り出す。及川はちゃんと覚えていたようだが、影山だけが強かったわけじゃないと、それを否定した。
「お前めんどくせーな」
「酷いな！」
いつも通りだ、と安心しながら他のやつにユニフォームを渡す。一静が後ろに来た。
「汗拭いた？」
「ん」
「ドリンク飲んだ？」
「ん」
すっと俺の小指を掴み、その場から離れようとしない。甘えてるな、とすぐに分かったが、もう少しで準々決勝だ。
「帰ってからな」
「ん」
掴んだ小指はそのままで、周りの準備が終わるのを待っているらしい。ドリンクを飲んでいる音がする。
「着替えろよ？」
「ん」
何か言いたいことがあるらしいが、静かにそこにいる。たまに俺の小指の爪を撫でてみたり、手の甲をさすってみたり。
「試合中、お前らより余裕なくなってごめん」
「いや、外から見ててもあんだけラリー続けば辛いだろ」
気にすんな、と小指を離して俺の背中をさする。動いたあと特有の、高過ぎる熱が心地よかった。
これ、準々決勝だよな、と確認したくなるほどあっさり終わった。実は烏野戦が準々決勝で、今が準決勝で、とおかしな妄想をしそうになる。なんなら、烏野戦が決勝でも良かったくらい。
「おつかれ」
「サンキュー」
「ウェーイ」
花巻とハイタッチをしながら、コートにいた面々を迎える。
「明日も、勝つ」
及川が呟いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 132人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シャバ僧(プロフ) - ひなさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！頑張って完結まで書き切りますので、今後ともよろしくお願い致します！ (2022年9月9日 17時) (
レス) id: 97accd6b89 (このIDを非表示/違反報告)
ひな - コメント失礼します。この作品すごく好きです！画像もかっこいいですね。応援してます！ (2022年9月9日 0時) (レス) id: c76bd02e2f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シャバ僧 | 作成日時：2022年9月2日 21時
