500の櫻の中で貴方と (ページ10)

今日:2 hit、昨日:7 hit、合計:15,369 hit

6 ページ10

「智くん…」

「…翔、く、」

「智くん…
もう、急にいなくなったりしないで？」

声が、震える。

「俺の、隣りにいて？どんな感情でも構わないから
俺のこと好きなら、それでいいでしょ？」

1年前と、気持ちが同じかどうかは、わからないけど。

あの日、俺の前からいなくなった日
初めて聞かせてくれた、俺が聞きたかった言葉。

智くんが思ってるよりもきっと
ずっとずっと前から、俺が聞きたかった言葉。

「翔く…」

「俺だって、智くんが好きだよ？」

智くんが、ひゅっと息を飲む声が聞こえた。

「だめだよ…
最初に、決めたでしょ？
お互いに特別な感情を持っちゃダメ、って。
どちらかがそうなったら、関係を終わらせる、
そういうルールだったでしょ…？」

俺たちが、身体の関係を持ったとき。

それは、お互いが大切な人と別れることになって
心がぐちゃぐちゃに、なっているときだった。

そのとき、ふたりで泥酔して
どっちが誘ったとかは、もう正直覚えていない。

最中のことだって、ちゃんとは覚えてやしないんだけど

少なくとも俺は、すごく満たされたんだ、その時は。

だからそれからも、たまに会って欲求を満たす関係になっちゃおうか、と

そのときに、決めたルール。

それが、「お互いに特別な感情は持たない」というものだった。

俺は、ずっとずっと大切で
将来も考えていた人に、突然、振られて。

智くんは、同じように大切だった人を
…病気で、亡くして。

傷の舐め合いみたいな、ものだったんだ
そんな気が、お互いしていたんだ。

「愛」なんてモンは、永遠なんかじゃない。

いつだって簡単に、俺たちを裏切る。

そう、感じてしまった俺たちは
もう、「愛」だとか、「恋」だとか
「想い」とか、「永遠」なんてものは
信じられなくなってしまって。

だから
もしも、どちらかが相手に好意を持ったとしても

その「好き」という想いはきっと間違いで
勘違いで
持ってはいけない感情で

お互いを傷付ける感情でしかないから、って
持ってはいけない感情だから、って

同僚として
それ以上になるのはやめよう、って。

そう、考えた結果

俺たちは、愛し合うことを、禁止した。