500の櫻の中で貴方と (ページ9)

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まだ少し、遠い彼との距離。

歩いて、少しずつ縮める。

「二宮先生から、きいたの？」

「…知ってたんだ？」

「メール、来てたから。『ごめんなさい』って。」

「…そっか。怒んないであげてね？無理やり、聞き出したから。」

俺たちの関係を、唯一知っていたのは二宮先生だった。

3人でよく、飲みに行ったりもした。

俺たちの関係が始まる前から、ふたりが仲良かったのも知っていたので
何か知っているだろうと思っていた。

だから、必死に聞き出した。

はぐらかしたり、ちょっとした演技も上手い
また、人との約束は守る、結構義理堅いその人から
本当のことを聞くのは、大分大変だった、けれど。

最後は、「根負けした」と
彼が実家に帰って小さな絵画教室を開いたらしいということと、
実家の場所まで、教えてくれた。

「怒ったりなんか、しないよ。」

「うん。だとは、思ったけど。」

そう、返事をしたところで、立ち止まる。
もう、彼が、目の前。

「…綺麗でしょ？この桜。」

「…だね。」

「桜をね、見るとね
どうしても、思い出しちゃうから。」

なにを？とは、聞かない。

聞きたい、のに。

だってきっと、その答えは。

「…うん。」

「だから、今年は描くのやめようと、思ったんだけど
たまたま見つけたこの場所が、
すごく気に入っちゃってさ。」

「そっか…」

「でも、どうしても、描けなかった」

桜を見上げたままだった彼の顔が、
ふいに俺の方を向く。

「翔くんを思い出して、胸が、苦しくて
どうしたって、上手く描けないん…」

その言葉を聞き終わるより先に
彼の華奢な身体を、抱きしめた。