500の櫻の中で貴方と (ページ8)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:15,363 hit

4 ページ8

風が強くて、桜吹雪が舞う。

その先に愛しい人が、桜の木を見上げていた。

その、美しい横顔に、見惚れる。

駆け寄って、今すぐにでも
抱きしめたいはずだった、のに。

思い焦がれたその人に
ずっとずっと、会いたかったその人に
近寄りたい衝動は、その切ない表情を見る度消えていって
気がすむまで、その横顔を眺めていた。

それが、10秒だったのか 30秒だったのか1分だったのか数分に渡っていたのか
もしかしたら、何時間も経っていたのかもしれないけど、
それは、自分でもわからない。

満足のいくまで彼の顔を眺めたあと、ゆっくりと、歩いて近づいた。

「やっと、見つけた。」

俺の声に、桜を見上げていた彼は
驚いたような顔で俺に振り向いた。

だけど、すぐにいつもの穏やかな笑顔に戻って

「…よく、見つかったね。」

と言った。

「探した、からね。1年間。」

「…そっか。すごいね。」

「うん。ほとんど執念。」

「ふふ。おっそろしい。」

「なんとでも言ってよ？」

ずっとずっと、探してた。

突然、学校も辞めて

教師を辞めた、とだけ伝えられて。

突然、って言ったけど
俺以外の先生たちは、当然のように全員知っていた。

そりゃ、仕事だし。

だけど、あてつけみたいに俺には隠されていて。

なんなら、生徒たちにですら
なんとなく匂わせていたようだった。

そうやってちょっとずつ、俺には隠したままで
彼は俺から離れる準備をしていたんだ。

きっと、俺が探さなきゃ
俺から一生、逃げる気だったでしょ？

もしかしたら、見つけた、今でさえも。

でも

そうは、させないよ？

やっと、やっとの思いで会えたんだ。

逃げさせや、しない。