500の櫻の中で貴方と (ページ6)

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「こんな絵、あったんだー、しらなかったー」

「オマエ、もうすぐ1年経つぞ！？知らなかったのかよ？」

「壁なんか、見ないもんー」

「はは、そうだよな。」

「先生、甘くね？掲示物とか、見ないとだめだろ…」

「松本は、偉いなあ」

ご褒美、ってわけでもないけど
教えてやろうか。

「この絵はな、去年の春までいた
美術の先生が描いたんだよ。」

「美術の先生？」

「そう。」

「あ、もしかしてアレ？
美術の先生なのに歌が超絶上手くて、酔うと突然踊り出してそのダンスも何故か上手くて、美術室で絵だけじゃなくてフィギュアとか模型とかまで篭って作ったりして？」

「ふふ、そうそう。よく知ってるな、松本。」

「かと思えばアウトドア好きで、年中日に焼けてる変な先生がいた、って」

「ふは！それ、誰が言ってた？」

「二宮先生に聞いた。」

「そっか、はは。」

「その人が、描いたの？」

「うん、そうだよ。」

「なんでずっと、飾ってあるの？」

「気に入ってんだ、俺が。
この壁は、俺のクラスの壁だろ？
ということは、俺になにを貼るか決める権利がある！」

「職権乱用だ！」

「なんとでもいえ！」

はは、と二人で笑っていたら
相葉がぽつり、とこぼした。

「…綺麗な、桜の絵だね。」

その言葉に、俺も再び
その絵に視線を移す。

「…だろ？」

この絵を描いてるときのこの人の表情も、
すっごく、綺麗だったんだよ。

そんなことを言いそうになって、飲み込む。

あのときの、彼を
美しい彼の横顔を思い出して、出そうになる涙を堪える。

俺が初めて、彼に心を奪われたのも
この桜の木のそばだった。

切ない表情で
桜を見上げて
その目のまま、キャンバスに目線を落とす
その姿に
俺は惹かれてしまった。

そして
会いたいな、と思うとき
ここに来ると、彼に会えた。

俺が先に来て
桜に癒されているときもあれば、
彼が先に来て
桜を描いているときもあった。

桜が満開の季節も
葉っぱだけの季節と
枝だけの季節だって

彼はいつも、ここで桜を描いていた。

『いつも同じモンばっか描いて、飽きない？』

『飽きねぇよ？
翔くんと桜が、一番描きたくなるから
そういう欲、掻き立てられるんだよな』

『…なに、それ』

『…ふふ』

なんて照れ臭い思い出を
彼が描いた、桜の絵を見ながら思い出す。