5Fr�� ページ38
沈黙。
私は手持ち無沙汰に、手元のペットボトルを凹ませる動作を繰り返した。ベコリと、プラスチックが歪む音がすると、隣からも声が聞こえた。
「真琴から聞いた。………水泳、辞めちまったんだってな」
「……うん」
「なんでだ」
今の私には、凛の問いかけを冷静に受け流すだけの余裕はない。いつもみたいに、適当な愛想笑いをする気力がないのだ。
「凛もでしょ」
「は？」
「凛も、競泳、やめようと思ってたんじゃないの」
真琴から話を聞いたとき、なんとなくそんな気がした。凛はハルとの勝負に負けて、夢を諦めたのだと。オリンピックの選手になるという、大きな夢を。
ハルも。
ハルも、凛を傷つけてしまった罪悪感から、競泳の世界から自ら身を引いた。
──それでも。
それでも、2人は。ハルと凛は、岩鳶SCで再会を果たし、もう一度競い合うことを決めた。
まるで、運命のようだと思う。ハルと凛が一度は競泳を諦めたのも、再会して勝負を約束したのも。すべて、こうなることがあらかじめ決まっていたことのように思えてならない。
──けれど。
その青い物語の中に、私はいない。
必要ないのだ。
「……お前だって」
「…………」
「お前だって、もう一度、泳いだらいいじゃねぇか」
あぁ、今日は、本当についてないな。
「──勝手なこと言わないでよ」
「………A？」
凛が、私の方を向いたのが気配で分かる。
私は手元のペットボトルを握る力を強める。圧力に負けて上昇する水面と同じように、溢れ出る言葉を抑えることができなくなった。
「私は、凛とは違う。何もかも違うんだよ。一緒にしないで。ハルたちに失礼だ」
「……意味、わかんねぇよ。どうしちまったんだよ、お前。らしくねぇぞ」
らしくない？
私らしいって、なんだ。
分からない。
分からないから、苦しい。
「………私はもう、泳ぎたくても泳げないんだよ」
言わなくてもいい言葉だと思った。
けれど、一度口から出た言葉は、どうやっても取り返すことはできない。
私は、目を見開いて固まる凛にちらりと横目をやり、そのまま背を向けた。
「じゃあね」
「お、おいっ！」
後ろから、ガタリと音を立てながら呼び止めるような凛の声が聞こえたが、振り切るようにして歩みを進めた。
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ミノ(プロフ) - ちょこれーとさん» 嬉しいコメントをありがとうございます！とっても励みになります！私も遙が好きなんです！これからも気長にお付き合いいただければと思います^^* (2021年6月19日 22時) (
レス) id: 39ed912905 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれーと(プロフ) - この小説めっちゃ好きです！Free！の映画も楽しみですね。笑 ちなみに、私はハルちゃんと郁弥推しです！これからも作者様のペースで頑張ってください！応援してます(*'▽') (2021年6月19日 22時) (レス) id: 64be1a2e2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ミノ | 作成日時：2021年5月17日 21時
