苦いチョコレート。 ページ37
昼といえど冷たい風が髪を撫でる。
周りに人はいない。
｢久しぶりやねぇ｣
｢あ、うん。そうやなぁ。｣
｢うつくんが元気そうでよかったぁ。｣
｢あはは、ありがとう。僕は元気やで。Aちゃんも元気そうでよかったわ｣
｢私は毎日元気やで！｣
久しぶりに会ったAちゃんは、やっぱり可愛くて。会えたことによって口元の緩みは抑えられないし、話していなかったこともあって上手く話せない。
お互いに何を話せばいいのか分からず、訪れる沈黙。
それを打ち破ったのはAちゃんだった。
｢…なぁ、うつくん。｣
｢ん？なに？｣
｢あ、えっと…。べ、勉強どんな感じ？順調？｣
｢あ、あぁ。うん。何とかね。…Aちゃんは？｣
僕がそう聞くと、Aちゃんは僕からそっと視線をずらした。
｢…ごめん。聞かん方が、よかったかな。無神経やな、ごめん。Aちゃん｣
｢ぁ、謝らんといて？勉強の方は大丈夫なんよ。｣
“勉強の方は”ということは、他に何かあったのだろうか。しかし、これ以上Aちゃんが困るようなことを聞いてもいいのか。だめに決まってる。
口を開くことなく、ただ彼女が喋り出すのを待つ。すると、Aちゃんがもう一度口を開いた。
｢うつくんはさ、私が絵を書くのが好きって知ってるやんか。｣
｢…うん。知ってるよ｣
｢…美術を学べるところに行きたくて。それで、デッサンとか色彩構成とか色々やってたねんけど。上手いこと出来ひんくて…。｣
僕は彼女の言う、デザインやデッサン、色彩構成も言葉でしか分からないし実際にやった事がないから彼女の為になるようなことは言ってあげられない。
｢引き出しの中身が埋まってないから、モチーフも少なくて。予備校の先生にもあなたは面白みがないって言われちゃった。｣
｢そう、なんや…｣
｢実際な、私もそう思うねん。私が書く絵は面白くない。よく言えば模範的で、悪くいえば量産的なものやねんな。華がない。目立つようなものがないねん。｣
美術の世界は、きっとすごく道が狭くて。沢山いる人の中でも特別光る人が上へと行ける。そんなイメージだ。
素人の僕が何を言ったって、きっと何の支えにもならない。でも、彼女がまた前を向けるならそれでいい。
｢Aちゃん、今から綺麗事言うな？｣
彼女は黙ったまま。肯定と捉えていいだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 271人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちぇる(プロフ) - 白ごまさん» コメントありがとうございます！ (2021年4月19日 19時) (
レス) id: 2136318bfb (このIDを非表示/違反報告)
白ごま(プロフ) - 甘酸っぱい両片思いでもうずっとキュンキュンしてました。完結おめでとうございます！ (2021年4月18日 4時) (レス) id: bba1a3ae28 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる(プロフ) - �世気�» コメントありがとうございます！ (2021年3月12日 20時) (レス) id: 2136318bfb (このIDを非表示/違反報告)
�� - キュンキュンする（真顔） (2021年3月12日 18時) (レス) id: 86f4624805 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇる(プロフ) - メロンパンさん» コメントありがとうございます！ (2020年12月1日 19時) (レス) id: 2136318bfb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
