大丈夫ではない ページ30
***
彼らには上手くはぐらかされて、帰路に着く。ぼんやり窓の外を眺めていれば、隣に座ったうつさんのスマホからけたたましい着信音。
少しだけ苛立ちながら端末画面を見た彼は、途端に顔を青くして冷や汗を垂らしながら画面をスライドする。
ut｢…は、はいもしもし｣
｢“どこ行っとんねんお前！”｣
ut｢そ、そんな怒らんでや！｣
｢“Aは無事なんやろなぁ！”｣
ut｢無事やって！隣おるし！な？Aちゃん｣
電話先の声は随分お怒りらしく、誰かは分からないがうつさんがあまりに不憫なため返事する。
『はい、ちゃんといます。』
｢“あ、お、おう。それならええわ…。とにかく、うちまで安全に帰ってこいよ！”｣
sha｢分かっとるよ〜トントン。｣
ut｢シャオちゃんもこう言うとるし！じゃあ切るでー！また後でな！｣
…トントンさんだったんだ。私の前では本気で声を荒らげたことがないから分からなかった。電話越しというというのもあって尚更だ。
でも、待って。トントンさん私の事呼び捨てで呼んでた…。今までそう呼んでくれたことはあっただろうか？疑問に思っていれば、無事到着したようでシャオロンさんがシートベルトを外す。
sha｢着いたから二人先家入っとき｣
ut｢ありがとうシャオちゃん｣
『ありがとうございます』
sha｢ええよええよ〜。大先生は後で話しよか｣
にっこりと笑っているものの、何か含みのある笑顔だ。お話で済めばいいのだけれど。
私を先頭にして扉に手をかけようとすれば、先に開かれて目の前はいつもの玄関の景色ではない。
？｢うぇ、A…さん｣
『あ、えと…ただいまです。トントンさん』
tn｢おかえり、なさい。その…さっきの電話は気にせんでくださいね｣
凛々しい眉を下げて照れたように頬をかく。少しだけ可愛いと思ってしまった。この人は、ヤクザなのに。
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