雲 ページ26
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日も落ちてきて少しだけ涼しくなった頃、彼女のお願いを聞くために黙って着いていく。
付き合って欲しいところとは、一体何なのか。
｢…ねぇ、希くん｣
｢あっ、はい。な、なんすか｣
｢今日は、ありがとう。｣
｢い、いやいや。俺も楽しかったし。こちらこそ、ありりがとう｣
｢我儘に付き合ってもらって、さらに付き合ってもらうのは心苦しいんやけどさ…。｣
ショッピングモールを出て、少し行ったところにある大きな公園。青々とした木々が立ち並ぶそこは、この時間だからなのか人気がない。
｢希くんに、夏休み中めっちゃ助けてもらったよなぁ｣
｢…そんなこと｣
｢ううん。ほんまに、めっちゃ助けてもらった。部活のことで悩んでて、誰にも言えんかったのにさ。｣
ただ真っ直ぐ、前だけを見つめて話し始めるAさん。その瞳に曇りは一切ない。
｢ほんまに、もう。二度と走らへんって思ってた。こんな事くらいで泣いてるような自分のこと、ほんまに嫌いで、悔しくて。でも｣
眩しかった夕日はその光を失いかけており、空はオレンジから夜の青を連れて紫色がかっている。
｢希くんがおったから、また走ろうって思えたんよ。ありがとう。…君がおらんかったら、私きっとダメになってた。｣
立ち止まる彼女を振り返ると、それはもう綺麗な笑みを浮かべていて息を呑む。何も、言えなかった。
｢…それで、やねんけど。｣
｢は、はい｣
｢言おうか、言わまいか迷っててんけどさ。聞いてくれる？｣
｢…おう。｣
二人の距離は変わらない。手を伸ばしても少し届かないようなもどかしい距離。
生暖かい風がそっと撫で付けて、彼女の綺麗な髪が攫われる。
｢…私、希くんがすき。｣
風に乗った声は、ただ、真っ直ぐ。しかし、小さな声で、健康的な彼女の肌は赤みを帯びていた。
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