雲 ページ23
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薄暗いフロアを、足元の英語を頼りに登っていく。
彼女は少しヒールのあるサンダルを履いていて不安定だったのか俺の服の裾を持っていて、大袈裟なくらいに肩が跳ねた。
｢あ、ごめん…！ちょっと、足元怖くて｣
｢い、いや。いいっすよ。｣
でも、服の裾やったら俺躓いた時咄嗟に庇われへんなぁ。…言うか？いや、でも…。
男、見せらなあかんな！
｢…裾やったら躓いた時庇われへんから、こっちやったらあかん…？｣
｢えっ、ぁ…うん。あり、がとう…｣
｢…うん｣
うわ何これ、めっちゃ微妙な空気になってもうた。
あー手汗やばい。ごめんほんまあともうちょっとやから耐えてくれ…！
｢あ、ここの列や…。Aさん、こっち｣
｢う、うん…｣
流石にもう手を離しても大丈夫かと思って力を抜くも、彼女は握ったままだ。
不思議に思って振り返ると、彼女がジュースで顔を隠している。隠しきれていない顔は暗くても分かるくらいに赤かった。
｢っ…え、えと…｣
｢こ、このまま繋いでてもいいで、すか｣
｢あ、はい…ど、ドウゾ｣
急展開に汗が止まらない。映画館は寒いくらいに涼しいのに握られた手は二人分の体温が溶けて混ざり合う。
正気保ったまま映画見れるか分からんわ…。
映画が始まるまで、俺たちの間に会話はない。
繋いだままの手は肘掛に置かれてずっと視界に入るし、だからいつまで経っても顔の熱は治まらない。
俺たちが見る映画の予告が流れ始め、それを見た彼女が少し強く手を握る。
俺自身あまり得意ではないホラー映画。
Aさんが見たいと言うならと意を決したつもりだが普通に怖い。彼女も怖いようで左手でたまに目元を隠している。
怖いの苦手やのに見たがるんやなぁ…。俺やったら絶対見に来よう思わんわ。
でも、新たな一面を見ることが出来て嬉しさの方が勝つ。かっこいいところ見せたいなぁ。
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