【d!】最低な祝福、キスで落として。 (ページ10)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:13,504 hit

紅ページ10

***

廊下を通ればすれ違う組員さんに、綺麗だと言われて恥ずかしかったがそれ以上に嬉しかった。
会釈だけして草履を履く。

優しい笑みを浮かべた姉さんに見送られて、外に出れば着流しを着たトントンさんがそわそわとしていた。
普段から着物を着ているから、見慣れたはずのその姿はいつもよりもより一層かっこよく見える。

tn｢ぅえ、A…？｣
『はい、えっと。お待たせしました…？』
tn｢…待ってへんよ。い、行こか。｣
『は、はい。』

今日は成人式で、近くに住んでいた同い年の人たちが市民ホールなどに行く中私は彼と二人撮影スタジオに向かう。
やっぱり成人式に行く気にはなれなくて、それでも彼らが撮影だけでもした方がいいと説得された。

こういう撮影は七五三以来で、本当に緊張してしまう。姉さんや二人が施してくれたものが不安なのではなく、自分に自信を持てないために不安なのだ。
完璧に晴れてはいない空を眺めて、会話のない二人きり。

そんな時に彼は口を開く。

tn｢…よう、似合っとる。｣
『え、あ…ありがとうございます。』
tn｢俺も、その振袖が一番Aに似合うやろな思っててん。えっと…綺麗やなって。｣

普段から私のこと褒めるくせに、こういう時は恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。ずるい。
いつもの堂々とした姿勢はどこに行ったんだ。

『…トントンさんこそ、今日はいつもよりもっとかっこいいですね。』
tn｢褒めんといてや…｣
『いつも私のこと褒め倒してくる仕返しです。』

褒められ慣れていないのか、素直に照れるトントンさんを揶揄えば少しだけ不機嫌そうに口を尖らせる。
そして、黙って私の右手を包み込んだ。

『は、何ですか急に』
tn｢…Aが迷子ならんように繋ぐだけや｣
『迷子になんてなりません！…繋ぎたいならそう言えばいいのに。』
tn｢はよ行くで！｣

握られた右手が暖かい。