大量の封筒 ページ15
***
バレンタインから数日。二月ももう終わりかとカレンダーを眺めていれば、ふと廊下の方に視線が向いて落ちているものに気を取られる。
『…何あれ。』
薄ピンク色の封筒？何故廊下に…？
疑問に思いながらも、誰かの大切な郵便物だったらいけないからと拾いに行く。
『名前は、書いてないのか』
郵便物なら名前くらい書いているだろうと思ったけれど、どうやら違ったらしい。人様の物だと仮定すれば流石にこの封筒を開く気にはならない。
が、廊下が続いている向こうにも同じ封筒が一つ落ちている。
もしかして、誰かに
生憎彼らは殆どが仕事に出ていて、現状この家にいるのは私含めて四人だけ。
ロボロさんとうつさんは会社組の人たちと連絡を取って、新しい事業を考えているらしい。
だとすれば、この封筒を廊下に落とすことが出来るのは一人だけだろう。
『…とりあえず、この封筒を辿っていけばいいのかな』
独り言を呟きながらその封筒たちを拾い上げていく。
わざわざ拾わせるということは、多分私に向けての手紙だろうし。その場で封筒を開いていく。
一枚の便箋に、ただ一文字だけ。
今のところ彼が何を伝えたいのかは見当もつかないが、全てを拾い終わった時にでも意味が分かるのだろう。彼の誘いに乗る他ない。
ご丁寧に落とされている封筒を拾い上げて、辿り着いたのは__。
『…入れって、ことなのかな。』
今まで一度も入ったことのない、彼の部屋。
最後に拾った封筒を開く。
“待ってる”
ただ、本当にそれだけ。便箋の真ん中に書かれたその文字をよく噛み砕いて襖に手をかける。
tn｢来て、くれたんやな｣
『あんなに分かりやすく誘われたら、まぁ…。来ないといけないのかなって思いますよ』
tn｢ふ、そうかぁ。ま、座りや。んでこれ膝にかけとき。寒いやろ｣
トントンさんが座布団を軽く叩くので、静かに腰を下ろした。
渡されたブランケットを膝にかけて彼の言葉を待つ。拾った封筒の文字を一つずつ思い出してはみるが、言葉を組み立てるためには時間が足りない。
tn｢要件だけ簡潔に言うわな｣
赤い瞳に私が映る。
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