司帝国には眼鏡がないらしい (ページ49)

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第49話ページ49

司side

二人は突然現れて突然喧嘩を始めた。少し呆気に取られていると、男が老父の肩に手を置いた。

「あんたこのガキのジジイか？どう落とし前付けてくれんだよ。こっちは怪我したんだ。それ相応の態度ってやつがあるだろ？」

「…あぁ、そうだな。何を望む？慰謝料か？」

「くくっ、じゃあ手始めに、ジジイの苦しむ顔だ！」

そう言って男は老父に向かって拳を振り上げた。

一瞬だった。

瞬きをしたその時には、男は砂浜に倒れていた。

「え、え？」

「うへぇ、痛そう…」

「A、早く帰るぞ。稽古の時間だ。」

「うげ、最悪。あ、そうだ。さっき警察に通報しておいたから説明よろしく。このおじさん、巷でも有名な人で近所の人も迷惑してたみたいだから、ちゃんと話せば補導してくれると思うよ。その傷も、この人にやられたんでしょ？」

少女は俺が怪我した頬と同じ場所を指さした。

「早く治るといいね。」

「A！！」

「…あぁ～、私はもう行かないと。あの人に怒られる。たんこぶが増えるのはご免だからね。」

「ふふっ。」

「じゃ、お大事に。」

「あ！ありがとう！」

咄嗟に言った言葉を聞いた少女は照れ臭そうに笑って大きく手を振った。そして老父の横まで走っていくとまた頭を叩かれていた。女の子なのに。あんなに強くて、逞しくて、堂々とした背中が頭から離れない。いつしかそれは憧れに変わっていた。

・

そして成長した少女が俺の目の前にいる。昔大きく見えた彼女は、今では自分よりも小さい。夜に男がやって来たというのに、平気で招き入れ、警戒心もなく座る彼女に無性に腹が立って俺はAを押し倒した。覆いかぶされば余計に感じる体格の差。抵抗する両手を抑えつけて目の悪い彼女に近づいた。

「確かに君は強い。うん、俺はそんな君に憧れて強くなった。でも今は君を簡単に拘束できる。言ってる意味わかるかい？」

「……」

「俺は男だよ。女性の君にそういうことをしないなんて確証はない。」

何も言わずにジッと黒い瞳が俺を見つめる。彼女は「司、」と掠れた小さな声で名前を呼ぶと、普通に喋りだした。

「この世界になってから女扱いされ始めて怖いんだけど。」

「…。」

彼女はいつも思っていた反応の斜め上を超えていく。