司帝国には眼鏡がないらしい (ページ44)

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第44話ページ44

そこから結構歩いたところにある大きな洞窟に着いた。
暗闇の中、そこからは押し潰されてしまいそうなほどのオーラが溢れていた。

「会いたかったぜ。よぅ初めましてだな、司。俺の名はクロム、石神村の科学使いだ…！！」

その自己紹介に私は頭を押さえた。そこに佇むのは司と氷月。後ろには司が起こしたのだろう屈強な男たちが立っていた。司、氷月、羽京の3人が揃っていることが珍しいのか、周りがザワザワとし始める。

「マジでさぁ…クロム、ほんと…あぁ～………馬鹿。」

「なんでだよ！？」

「…クロム、君はどうして自ら科学者だと名乗ったんだい？千空から現況を聞いていれば消されるリスクを恐れるのが普通だ｣

「おぅよ司！科学絶対殺すマンのテメーに、俺がガッツリ教えてやりにきたのよ。科学がどんだけ面白ぇかをな！！｣

ここでクロムがしくじれば、司は容赦なくクロムを排除しようとするだろう。
けれどここで私が口を挟んでも状況は変わらないし、むしろ悪化させてしまうかもしれない。

｢いいか、よく聞け。まずは＿＿｣

息を飲んで、私たちはクロムの次の言葉を待った。

｢炎色反応！！！｣

多分今、周りの温度が3度は下がった。

あぁ、終わった。

・

先程しくじったクロムは滝に落とされそうになっていた。氷月の槍一つだけで支えられ、今にも落ちてしまいそうだ。

｢科学者のクロム君がここに来た目的を教えてくれますか？まぁ、口を割らなければこのまま死ぬだけですが｣

ケータイを持ってきたなんて、口が裂けても言えない。言ったら全てが無駄になる。

私は縄を掴む羽京さんの目を盗んでポケットから隠していた小さな刃物を取り出した。刀は羽京さんに取られていて武器がない。

｢クロム、俺は科学文明全てを否定している訳じゃない。現にここでも炎や道具を使っている。それだって立派な科学だよ。だが、歯止めは必要だ。既得権益者達が全てを牛耳る旧世界が、どれだけ科学武器で汚れきっていたか、君は知らない。何者かの意思で浄化されたこの世界を、また汚そうとしているんだ｣

｢この際です、我々に付きませんかクロム君？｣

その誘いにクロムは絶対に断る。私はそう確信していた。