誘拐されてメイドになれと言われた【JN】６ (ページ12)

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２４４．起きてページ12

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「Aっ、A…っ」

僕は彼女を抱き寄せた。本当に、本当にわずかだけれど、浅い呼吸が繰り返されていた。そっと心臓に耳を当てればとくとくと弱々しい音が聞こえた。まだ、Aは生きている。

どうしよう、とりあえず、…救急車、

手が震えて上手くスマホを操作できなくて。
番号を繋いで耳に押し当てれば、淡々とした人の声が聞こえたんだ。

10分。それじゃ…それじゃ遅いんだよ。

そんな時間を待っている間に、Aは＿＿＿

「A、」

もう何度名前を呼んだだろう。それでも返事はしてくれなくて、息もしてるし心臓も動いているのに、どうしてか…もう、息絶えているように見えてしまうんだ。

ぱた、とAの頬に雫が落ちる。これは僕が落とした…涙。

甘い匂いに頭がおかしくなりそうで、こんな状況で嫌でも湧いてくる食欲に、自分で気付いていた。

歯を食いしばって貪りたい欲望を抑え込めば、次々と溢れてくる。

情けない。嫌だ。死なないで。起きて。

悔しくて怖くて、やるせなくて。色んな感情が渦巻いてもう訳が分からない。

容赦なくAの頬を濡らして、僕は、それを止める術も無かった。

「……くそ、っ…」

「、…………」

思いを描き消すみたいにAの頬を拭った。そしたら、

Aの睫毛が震えながら、ゆっくりと持ち上がった。

「ぁ、…うそ、だろ」

「っ………」

彼女の瞳がゆっくりと僕を捉えて。確かめるみたいに、ソクジンさん、ってか細い声が僕の名前を呼んだんだ。

「う、そ、…あえた、会えた………」

震えた声でそう言って。途端にぽろぽろと涙を零し始めて。そんなAの儚い姿に僕はまた涙が出た。

「ッ、…うん、会いに来た、助けに来たよ。」

涙でぐずぐずで情けない声だったけど、必死に言葉を紡いで。

だって目覚めてくれたことが、奇跡だったから。

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