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「……とは言ってもさ」
そう口を開いたのは五条さんだ。
私は首を傾げて、その顔を見据えた。「どうしました?」
「意外と満足してるんだよね、缶コーヒーで」
そして語られたのは衝撃の事実で、私の目は白黒していたことだと思う。
「え!? じゃあ、今日は何でここに来てくれたんですか?」
思ったことはするりと口から出てきた。
少し前なら考えられなかったことだ。
「何でも何も、君に会うために決まってんじゃん」
そんなことを笑顔でさらりと言ってのける五条さん。
私には眩しすぎる。
「それでも、お礼はさせてほしいです」
私は少し下を見ながら言った。頭上からクスクスという鈴を鳴らしたような笑い声が聞こえてくる。
「そう? そこまで言うなら、僕のしたいことに今日はとことん付き合ってよね。それが僕に対するお礼ってことで」
「え、えっと、はい……?」
私は、動揺を隠せないものの、頷いた。
「───よし、んじゃ、手繋ご」
一瞬、その言葉が理解できず、私は固まった。
しかし、五条さんは私の返事など待たずに、手を握る。その顔は意地悪な笑顔だった。
「わ、冷た! 末端冷え性?」
「え、あ、そうです」
さっきからほとんど反射で会話している私。
手を繋がれるというのは、ここまで緊張するのか。
手は冷たいままだが、じんわり手汗をかきつつあるのがわかる。
「緊張してる? 可愛い」
また、そんなことを平気な顔で言ってくる。顔も熱くなるのがわかった。
「ま、それがわかったところで離してあげないけどね」
サングラスの隙間から覗く瞳はこちらのことをしっかりと見据えていた。目があってどきりとする。
「とりあえず、寒いし、駅ビル入る?」
なんて言う彼の声は近すぎると感じるほどに近く感じた。
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作者名:せみ。 | 作成日時:2021年2月7日 20時