#37 ページ37
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『お願いだから─────
そらのとこには行かないで』
あのときの言葉や、表情も。
執拗い男子学生たちから助けてくれたのも。
雨の日の出来事も。
ソファーに押し倒したり、キス……したり。
「────エイちゃんには、普通なの？」
彼は黙ったままだった。
「好きでもないのに、そんなことするの」
普通なの────？
訊いて、私は俯いた。
恋愛を厭うようなことを言うくせに
それと矛盾したような行動ばっかり。
「……普通なわけ、ねーだろ」
程なくしてエイジの低い声が聞こえた。
「俺が一番戸惑ってる」
不意に俯いた顔を上げると
あの冷笑は剥がれていて
代わりに、ゆらゆらと瞳が揺れていた。
「俺なのに俺じゃないみたいで」
それが伝染して、私は口の端を結んだ。
「でも“今”、
思ってることは本物だと思う」
そう言ったエイジは
私の目を真っ直ぐに見つめた。
真剣そのもので、視線を逸らせない。
「Aがあいつと付き合うのは、
それだけは何があっても嫌だ……って」
何故か泣きそうになった。
そう言ってくれるのは
私が“その先”を望んでいないと
思っているから？
それとも─────
って、他の理由を期待してもいいの……？
*
「……私はエイちゃんが好き」
二人だけの講義室に私の声が反響する。
「この気持ちは変わらない」
壁の傍に立ち、
少し離れたところにいる彼に視線を向けた。
「だから、
そらの気持ちには……応えられない」
今朝、彼に告白されたとき
一瞬でも揺らいでしまった自分を悔やむ。
報われないのならもういっそ、
そらと付き合ってしまうおうかと思った……
そうすればこの気持ちは
そらに塗り替えられると思っていたから。
でも、そんなわけはなかった。
「何で……。まだ、分かんないじゃん」
机を見つめたまま、拳を握り締めるそら。
「分かるよ」
「分かんないよ！
だってまだ、俺、何も─────」
彼は言いながら勢いよく立ち上がった。
言いながら。言い終わらず。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月26日 20時
