#32 ページ32
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「ちょ……っ、何─────」
逃れようと思えばそう出来る筈なのに
何故か私は言葉でしか抗えなかった。
どこか熱っぽいエイジの声が
やんわりと耳に届く。
「おまえさ、俺のこと好きなの？」
吸い込まれそうなほど真っ直ぐ見据えられ、
私は思わず目を見開く。
「な、何言ってんの？」
とは言いつつも直ぐには否定出来ない私。
「ちゃんと答えるまで
俺、離す気ないからね」
いつもよりやや強引なエイジ。
冗談を言っているような表情には
どうしても見えなくて。
だから余計、動揺が隠せない。
「そ、そういうこと自分で言う!?
ばか！ あほ！ 自意識過剰！」
何とかエイジの手を引き剥がし、
床に腰を下ろしてソファーにもたれる。
“離す気はない”という言葉の割には
彼の力は弱くて、その時触れた手は、
ひどく熱かった。
……惑わされちゃ駄目。
(熱に浮かされてるんだよ)
背後でごそごそと彼が動く音がして
びくっと肩を揺らす。
まるでいつもと別人みたいだから
上手く距離感が掴めない。
「……ねぇ、A」
エイジの声がすぐ耳元で聞こえる。
戸惑いつつも振り向いた瞬間、
優しく顎を掬われてほんの一瞬だけ
唇が重なった─────。
瞬時に状況を理解出来なくて
一拍遅れた後に、かぁっと頬が熱くなった。
「な、なに、何するの……!?」
唇に手の甲を当てながら勢いよく立ち上がる。
「何って、キス」
エイジは妖しげな笑みでさらりと答えた。
「そういうことじゃなくて！」
「じゃあ何？」
(何これ)
目の前にいるのは本当にあのエイジ？
「こんなエイちゃん、私知らない……」
心の中の言葉が思わずこぼれてしまった。
「……どんな俺を知ってんだよ」
寝転んだまま、悠然としているエイジ。
「嫌い」
気付けばぽつりとそう呟いていた。
「エイちゃんなんて嫌いだよ」
ほぼ反射的にそう言ってしまってから
我に返ってハッとする。
(……違う、違うじゃん、私！)
いつまでも
本当の気持ちと反対のことばかりぶつけてたら。
「そう。 良かった」
彼は冷笑を浮かべる。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月26日 20時
