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雨上がりの空。
息苦しいほど空気がぬるい。
でも、それも嫌いじゃない。
そう思うようになったのは
あの人がいたからだ。
*
大学のキャンパス。
いつもと変わらない日常。
この日一つだけ違ったのは、
キミと出逢ったこと。
「あ、ちょっと待って」
すれ違いざま、そんな言葉が流れた。
最初は私に言っているとは思わなくて
通り過ぎようとしたら。
「ちょっとー、無視しないで下さいよー」
明らかに私を引き止める声。
聞き覚えのあるそれと、揺れる赤い髪。
振り向いた先で目が合った彼が
いつも画面の向こうにいる“あの人”だと
気付いたときにはもう、
驚きと興奮が抑えきれなかった。
「え……え、え、エイちゃん!?」
ついいつもの癖で『エイちゃん』なんて
口をついて出てしまった。
目の前にいるのは紛れもなく、
アバンティーズのエイジだ。
なんで、彼が、ここに？
エイジから目を逸らせずにいると
彼は、ゆっくり歩み寄ってきて言った。
「おまえがAA？」
目にかかるほど伸びた前髪の隙間で
優しい目が覗く。
「そうです、けど……。
何で知ってるんですか？」
面識なんてない。
彼とは確かに「はじめまして」だ。
私が首を傾げていると、
「これ」
と、エイジは何かを差し出してくる。
それは以前私が失くした、
水色のパスケースだった。
「あ！ ……よかった」
もう、見つからないと思っていた。
角の方に小さな傷がついているし
私のもので間違いないだろう。
ホッと息をつきながら受け取る。
「ありがとうございます！」
そう言って軽く頭を下げた。
パスケースの中には、学生証のコピーと
私の電話番号が書かれたメモが、
定期と一緒に入っている。
もし失くしても、大丈夫なように。
たぶんそれを見て、私だと分かったのだろう。
「何か、こんなことしてるの小学生みたい」
パスケースを指して彼は言う。
こんなこと、とは
落としたとき用の対策のことだろう。
小馬鹿にしたような笑いに思わずムッとする。
「いいじゃないですか、別に！
こうして落としても届けて貰えた訳だし」
いくら拾って届けてくれたという、
恩があっても馬鹿にされる筋合いはない。
「でも、」
と彼は言った。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月26日 20時
