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ごめん、今日一緒に帰れなくなった
手早くエイジにLINEを送った。
二人から同じ誘いを受けたとき、もう無闇にそらの手を取ったりしないと思っていたのに。
エイジわかった
彼からの返信は早かった。
淡白な言葉からは感情が読み取れない。
ちょっと胸が痛んだのは、きっと気のせいだと信じたい。
もし引き止められたら私はどうしただろう。
……私の心は、曖昧過ぎる。
「帰ろっか」
そらに笑顔を向けられる。
当たり前のように手を取られ、彼の手に包まれた。
「え」
手、繋いでる。
そう理解した途端心が大きく鳴り始めた。
「どっか寄る？
……って思ったけどやっぱやめて、うち来なよ」
そらはあくまで変わらぬ調子だ。
一気に近づいた距離に、まだついていけない。
「え、っと」
「夜しばらく誰も帰ってこないし」
その意味に気づく前に、気にかかったことがあった。
「エイジも？」
「うん、高校のときの友だちと飲みだって」
そっ、か。
なんてことはない内容に安堵してしまう。
「みっくんとりっくんもそんな感じだし、エイちゃんもたぶん深夜まで帰ってこないよ」
私の手を包むそらの左手の親指が、繋いだ私の右手の甲を優しく撫でた。
「来る？」
夜、家に、二人だけ。
そこまで言われても彼の言わんとすることが分からないほど、鈍感じゃなかった。
引き返すなら今だ。
この手を振りほどくなら今だ。
でも……。
「うん、行く」
私にはそんなこと出来ない。
やっと掴んだチャンスなんだ。
後からエイジに叱られても、軽蔑されても、この選択を信じるしかもうない。
そらは満足気に頷き、いつも通りの笑顔を浮かべた。
「何か作ってよ」
「ご飯？」
こんな会話をするなんて思わなかったな。
でも、料理の練習をしておいて良かった。
普段はズボラなところが多い私だけれど、得意料理と呼べるレシピはいくつかある。
こくりと頷いたそらに「任せて」と笑う。
彼はテンションが上がったらしく「お！」とさらに笑った。
同棲しているカップルみたいだな、なんて。
本当にそうだったらどんなに幸せだろう。
「……」
今からそらと二人きりで過ごせるのに、こんなに心苦しいのはどうしてなの。
胸には何かがつかえていて、心には薄暗くモヤがかかっている。
右手には確かに温もりを感じるのに、それは果てしなく虚しいもので。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
