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「あぁ、うん。 あの子ね」
そらは思い当たったようでそう言って頷く。
何だかモヤモヤする。 何だろう、この感じ。
今の今まで忘れていたような……いや、さすがに忘れてはいないだろうけれど、彼はそのことを意識の外側に置いていたようではある。
心臓が跳ねる。
もしかして、って淡い最低な期待が湧き上がってしまう。
もしかして、こじれた……？
「こないだデートした。手繋いで、次の約束もした。
誕生日にも二人でお祝いすることになったし、そのときにでも告って、付き合って、結婚し────」
「そら」
思わず遮ってしまう。
そらはハッとしたようにこちらを向いた。
「絶対、途中から盛ったでしょ」
どこまでが本当か分からない。
でも、私の期待が打ち砕かれたことは確かなはずだ。
けれど宙を見つめて捲し立てるように言うそらの様子がいつもと違っていて、余裕のなさが窺えた。
「はは、ごめんごめん」
そう言って笑った彼の声は乾いた色で、やっぱり変だ。
いつから？
少なくとも私に「一緒に帰る？」と声をかけてくれたときには普段通りだった。
ということは……まさか私が、断った衝撃が尾を引いているの？
いつもそらに合わせてばかりだったから、彼のペースを乱したのかもしれない。
それはつまり、どういうことなんだろう。
そこまで考えたとき、バッグの中にしまってあったスマホが震えた。
エイジ終わった。 今どこ?
エイジからのLINEの通知だ。
「エイちゃん？」
そらが尋ねながら歩み寄ってくる。
「うん、そう」
そう答えてからLINEを開き、返信しようとすると、ひょいとスマホが消えた。
見上げると、そらの手の中にあった。
「どう、したの？」
眉を下げて笑いかけても、彼は表情を引き締めたまま。
黙って私の目を見つめてくる。
「返して……？」
背伸びをしてみても、届かない。
「やだ」とそらがスマホを反対の手に持ち替えた。
「あっ」
その拍子にバランスを崩してしまい、世界が揺れる。
しかし転ぶ前に肩を掴まれ、添えられた手の温もりに鼓動が速まった。
「ドジ」
「ご、ごめん」
そらの顔には笑みが浮かんでいる。
でも、いつもの人懐こいそれではない。
強気な目に捉えられて、視線を逸らせない。
その目にちゃんと、私は映ってる……？
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
