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数日後、私の家はダンボールやゴミ袋であふれていた。
とは言っても引っ越しをするわけではない。
『こんな俺を、好きになってくれてありがとう』
そらにフラれたあの日から、私にはもう必要のなくなったものを手放すためだ。
好きでもない服、鞄、あらゆる小物たち。
自分を作り上げるための材料でしかなかったそれらはもう、私には必要ないから。
『本当のAを、ずっと傍で見てくれてた奴がいるでしょ』
私は私を偽らないと決めたんだ。
クローゼットを開けて服を手に取り次々仕分けしていく。
そうしながら思った。
思いのほか、未練がないこと。
勿論失恋の悲しみやダメージは大きかった。
だから、あんなふうにお酒を飲んで暴走してしまって……。
でも彼にフラれた今、どこか清々しい気持ちだった。
区切りがついて安心したのかも。
それに、あの夜思い切り泣いたことできっと洗い流されたんだ。
暗い気持ちもネガティブな感情もぜんぶ。
エイジの前であんなふうに泣くなんて、思い出すと恥ずかしい限りだけれど。
そして────ずっと考えていた。
あのとき落とされたキスの意味を。
あれは一体どういうつもりでしたんだろう。
慰めるため？ からかうため？ それとも……。
何にしてもあの日から、私の中でエイジの存在はどんどん大きくなって、もうただの友だちとは思えなくなっていた。
だって。
「……」
全然、嫌じゃなかった。
♢
大学で数日ぶりに会った彼女は、見違えるほど変わっていた。
ゆるく巻いていた長い髪は肩くらいまで短くなっていて、服もデートの日みたいに清楚な感じで。
そらのための鎧を脱いで、自分を優先出来るようになったんだろうってことが一目で分かる。
……なら、もう遠慮なんてしなくて良いよね？
「変、かな」
少し照れくさそうにAが笑う。
「……ううん。 いいんじゃない」
遠慮しないとは言っても、そらみたく歯の浮くような台詞を量産出来るわけもないので、そう言って微笑むのが精一杯だ。
それだけでも彼女は嬉しそうに「そっか」と頷く。
何だか新鮮な距離感がくすぐったくなる。
「あの……“その節”はどうも」
Aがちょっと言いづらそうに視線を伏せた。
────その節、か。
「キスしたこと？」
含み笑いで尋ねる。
勢いよく顔を上げた彼女の頬は若干赤い。
「ち、違うよ！ 泣いたこと！」
必死になって抗議する様子が可笑しくて笑ってしまう。
「あー、はいはい」
「……迷惑かけてごめん、とか素直に謝ろうとしたのに」
「迷惑とか、今に始まったことじゃないでしょ」
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
