#78 ページ29
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「格好つけようとしてた。
応えらんないくせに、嫌われたくなくて」
その気持ちは私にも分かる。
私も今までそうしてきたから。
「色々考えたけど、それはもう忘れる。
でもひとつだけ、心の底から思うことがあって」
「なに？」
尋ねると、彼は一度口を噤んで立ち上がった。
それから、笑顔を向けてくれる。
それは、これまでのどんなときより優しいものだった。
「こんな俺を、好きになってくれてありがとう」
その言葉はきっと、好かれるための道具ではないのだと、信じても良いよね────。
私も笑顔を浮かべた。
今はたぶん仮面でも何でもなく、心の底から笑えている。
「……じゃあ」
またね、と言おうとしたけれど、図々しいかもしれない気がして咄嗟に言葉を飲む。
「うん、また」
でもそらは当然のようにそう言ってくれて、それだけで私の心は救われた。
脇を通って歩いていく彼の背を振り返って見つめる。
辛い気持ちでその後ろ姿を追うことは、もうないだろう。
「……あ、そうだ」
唐突に何かを思い出したようにそらが足を止め、こちらを向いた。
「あんま無理しないでね。 俺も程々に力抜くから」
────驚いた。
彼もいつかの時点で、私が“表面”しか見せていないことに気づいていたんだ。
本当の自分をひた隠しにするため必死でもがいていたのに、既に露呈していた。
そうと分かっても私に訪れた感情は、焦りなんかではなくて。
「うん……」
何故か、ほっとした。 嬉しかった。
すべてさらけ出せたわけではないけれど、そらは私を嫌わないでいてくれた。
「本当のAを、ずっと傍で見てくれてた奴がいるでしょ」
不意に彼が悪戯っぽく笑って言った。
本当の私を、ずっと傍で────そんなの、あいつひとりだけだ。
「あのとき言った言葉は嘘じゃないよ」
『いや、全然アリだと思うよ、俺は』
彼らの家で、私とあいつに向けてそらが言った言葉。
……私と、エイジが？
どくん、と心臓が高鳴る。
それを皮切りに鼓動が加速してきた。
そらが突然そんなこと言うから、変に考えてしまう。
恥ずかしい。
ただ、意識し過ぎなだけなのに。
思わず俯くと、そらの笑い声が聞こえた。
「真っ赤」
「えっ……」
戸惑う。 狼狽える。
深く考える余裕はなく、ただ彼の言葉を受け止めるので精一杯だった。
「またね。 応援してるから」
手を振って去っていくそら。
私の心に、新たな感情を残して────。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
