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と、夕陽に照らされ伸びた影が動いた。
「……ごめん」
彼の掠れた声が耳に届く。
ごめん、という肯定。
私の憶測はやはり間違っていなかったということだ。
「Aはぜんぶ、知ってたんだね。
俺が本当は最低だってことも、ぜんぶ……」
そらが儚く笑った。
私はすぐさま首を横に振る。
「そんなことない。 最低なんかじゃないよ」
「最低じゃん。
俺、Aの気持ち利用したんだよ？
自分の感情優先して、傷つけて、泣かせた」
……それは、確かにそうかもしれない。
だけど────。
「違う。 どれも私が決めたことだよ」
あの日の誘いに首を縦に振ったのは私。
報われないと分かっても好きでいると決めたのは私。
傷ついたのも泣いたのも、最初から拒まれていたのに、期待するのをやめられなかった私が悪い。
彼に失望しただの、夢から覚めただの、そんなの彼の虚像だけを見て勝手に理想を押し付けていただけだ。
“表面”しか見ようとしなかった。信じようとしなかった。
……でも、それでも。
「好きだった。 そらのことが、ずっと……」
私の想いが幻でも勘違いでもなかったのは確かだ。
どんな複雑な思惑の上に成り立っていたとしても、彼が好きだという気持ちに偽りなんてなくて。
自分の想いに自信が持てなくなったのは、気付いたからだ。
“本当の彼”を知らなかったことに。
「────ごめん。
俺は、Aの気持ちには応えらんない……」
あの日と違って、彼はきっぱりとそう言い切った。
その顔に同情の色は微塵も滲んでおらず、澄んだ笑顔が浮かんでいた。
「……うん、分かった」
私も同じように笑ってみせる。
すぅっと心が軽くなった気がした。
「実はさ、電話の時点で何となく気付いちゃって」
内心やっぱりと思いつつ、彼の話に頷く。
「ずっと考えてたの。
どうすれば傷つけないで済むか、みたいな」
彼の言葉ひとつひとつに、以前とは違うものを感じた。
今のそらは、きっと本来の自分をさらけ出してくれている。
何も取り繕うことなく、偽ることなく。
だから前ほど神経質にならずに、浸透するように聞くことが出来た。
「……ていうか」
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
