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♢
「あいつのリアクションとか感情を基準にするの、やめたら？」
向こうの顔色窺って笑顔を浮かべても、それは打算によるものだ。
そんなのいつまで経っても、万が一付き合えたとしても、仮面を外せない。
出会った頃から何も変われない。
「他人よりまずは自分に尽くさないと、幸せとも感じられないでしょ」
*
エイジの言葉は、すぅっと心に吸収されていった。
彼しか知らない等身大の私も、周りに好い顔する飾り立てた私も、ぜんぶ認めてくれたような気がして。
自分に尽くす……、そうか。
私の幸せは、その基準は、私にしか測れない。
「……そう、だね。 そう……本当そう」
躊躇やあらゆる迷いから解き放たれたような晴れやかな気持ちで思わず笑顔がこぼれる。
それなのに眉の辺りに力が入ってしまい、表情がぎこちなくなった。
鼻の奥がツンとして、視界が揺らめく。
悲しみじゃない。 感極まって、泣いてしまいそうだ。
────ずっと、怖かった。
私が“本当の私”を隠すのは、他人に嫌われないため。
性別問わず愛想を振り撒いてぶりっ子すれば、人は寄ってくるし何より私が損をすることはなかった。
でも、必死に取り繕って笑っていると、どんどん“本当の私”が壊死していくような気がして……。
いつしかそれさえ見失ったら、私は何者でもなくなるように思えて怖かった。
それでも、好い顔するのをやめることも出来ない。
疲れるだけの日々だった。
でも、あの日────
『周りをよく見てて、気配り出来る。性格も良さそう。
……でも、それがうさんくさい』
彼に初めて会った日、そう言われてひどく動揺した。
けれど、私を的確に見抜いたその台詞に、実際は救われていたんだ。
だからエイジと一緒にいたいと思った。
私が私でいられる唯一の居場所、だから。
「ありがとう────」
雫を落とさないよう堪えながら笑って言うと、彼は優しい微笑を浮かべた。
……決めたよ。
私、そらに告白する。
それで、終わりにしよう。
彼への恋とも、自分に尽くせない弱い私とも、さよならだ。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
