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そんな思いを心の隅に吊り下げながら、彼と約束の時間を決めて、朝食を平らげると準備に入った。
クローゼットの中を眺め、鏡と睨めっこする。
私がいつも身に纏う鎧、もとい甘い色合いの服たちが我よ我よと主張してくるけれど、私は腕を組んでしばらく悩んでいた。
一度カジュアルめなパンツスタイルに着替えてみたけれど、鏡の中の私はどこか不満げだ。
一応、デートなのだから可愛い服装をするべきかな？
でも、変にお洒落して行けば、気合いが入ってると思われそうで癪だし……。
クローゼットの中のほとんどの服たちは、そらのための鎧。
でも私が今日会うのは彼じゃない。
エイジはどんな服装が好みなんだろう。
好きなタイプとかも、全然知らないや。
「……って何考えてんの、私」
気にし過ぎだ。 それに意識し過ぎ。
もうこれで良いや、としっくり来ないパンツスタイルのまま行こうかと思ったけれど……。
「……」
もう一度鏡を見つめる。
大きく息をついて、再びクローゼットの中を物色し直した。
♢
昼過ぎになり、約束の時間も近づいてきたので家を出ようとする。
と、起きたばかりのそらが「どっか行くの？」と訝しげに尋ねてきた。
「デート」
適当にはぐらかしても良かったけれど(というかいつもならたぶんそうする)、何となく正直に答えてしまった。
「……へぇ」
そらは一瞬驚きに目を見張り、それから薄く笑ってそう言った。
誰と？ と訊かないあたり、察しが良い。
「じゃ」
「あ、うん。 行ってらっしゃい」
釈然としない様子のそらに見送られ、今度こそ家を出た。
Aの家の前に着くと、まだ彼女の姿はなかった。
早すぎたかな、なんて時間を確認するためにスマホを取り出そうとしたとき、上の方でドアが開く音がした。
「ごめん！ 待った？」
スカートを翻しながら階段を駆け下りてくる彼女は、宛ら童話の中のお姫様みたいで。
全然、と答えようとしたところ、不意にAがつんのめった。
「……っ」
咄嗟に身体が動き出す。
階段の下で、降ってくる彼女を抱きとめた。
「危な」
「び、っくりした……」
腕の中に収まった彼女が呟く。
抱き締めるような形になっていることに気づき、今さら少し照れる。
ふと見てみると、階段の途中にAのパンプスが一足脱げていた。
何これ、シンデレラ？
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
