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「え？」
弱虫、という単語が針のように心を突き刺してくる。
鋭く、小さな痛みはやがて全身に渡る。
「違う？
だってAが身を引くのって、誰のため？」
「そんなの、そらのために決まって────」
決まってる？ 本当に……？
どくんどくんと鼓動が響いた。
そらはきっとあの子が好きで、あの子もきっとそらが好き。
だから、第三者の私は諦るべきだ。
私はそらが好きだから。
好きな人には幸せになって欲しいから。
彼の幸せが、私のもとにないのなら、私は大人しく密かにこの想いをなかったことにする。
それは要するに、“そらのため”だと言えるはずで。
……違う。 そんなの建前だ。
怖い。 ただ、怖いだけ。
私が例えばそらに想いを伝えたって、拒まれるのは分かっているから。
そのとき受ける傷と恥に怯えているだけ。
守りたいのは私自身だ……。
ならば、私が身を引くのは、私のため？
その結論に身体が強張る。
視界が翳った。
「食らいつかないの？」
エイジは何でもないことのように言う。
「諦めたくないなら、もっと────」
「出来ないよ……」
私は彼の言葉を遮った。
思ったより弱く、掠れた声になった。
「それって、そらに他に好きな人がいても構わず押し通せってことでしょ？」
言葉にしてみると余計に、それが非人道的行為であるかのように思えてくる。
もし仮にそれで上手くいったって、その先ずっと罪悪感を拭えない。
得られるものなど何もない。
ただ振り回して傷つけるだけ。
傷は自分も負う。 きっとその痛みには耐えられない。
そらを傷つけるのは、嫌だ。
「出来ない。 したくない。
二人の仲を引き裂いて、幸せ壊して……」
「そんなことない。
無理矢理奪うわけじゃないんだから」
間髪入れずに言葉が返ってくる。
エイジなら、私に諦める方の道を勧めると思っていた。
「同じだよ。 私の入る隙間なんてないじゃん！」
私がそらと結ばれたいなら、あの子の居場所を私のものにしなければならない。
でも、そらとあの子は線分の端と端にいるんだ。
今もきっとどんどん距離を縮めている。
私がその線を断ち切って、彼女を押し退けて入る隙間なんてない。
そんなの、もう随分前から分かっていた。
そもそも彼の目に、私など映っていないのだから。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
