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「そんなことない」
ぶっきらぼうに言われる。
照れてるのかな、なんてちょっと可笑しくて笑うと、エイジはムッとしたように表情を引き締め見つめてきた。
「……あのさ。 俺、何とも思ってないヤツには優しくないよ」
「え？」
それって────。
騒ぎ始めた鼓動を抑え、黙って見つめ返す時間は果てしなく長い。
交わる視線に含まれた彼の真意は、雲に覆われた月のように見え隠れして私を惑わす。
そのうち、エイジがふっと表情を緩めた。
いつもみたいに意地悪な笑顔になる。
「ドキッとした？」
頬に熱が走った。
今が夜で良かった。 赤い顔を見られずに済む。
「す、するわけないでしょ！」
何が可笑しいんだか赤い悪魔はそれからしばらく愉快そうに笑っていた。
「これだからAは……。 もっと気をつけないと」
……そう、か。
それならこれまでの、そらの私に対する思わせぶりな態度は、からかわれてただけなのか。
それを勝手に本気にして、勝手に好きになって、勝手に傷ついて────。
「痛っ」
考え事に耽っていたら、頬に痛みを感じた。
彼が私の頬を軽くつまんでいる。
「帰ろ」
悪戯っぽく笑って言うエイジ。
その前に離してください、痛いんですけど。
「笑ってろよ。 深刻になることない」
そう言うと頬から手を離してゆっくり歩き出した。
私は頬を押さえて指先で撫でる。
「……」
彼といると、いつも心があたたかい。
今も、蝋燭に明かりが灯ったように、心に温もりを感じる。
ブランコから立ち上がり、エイジの背を追った。
隣に並んで、気がついた。
私を待っててくれたんだ。
彼のゆったりした歩調に合点がいく。
公園から出ると、彼はマンションを通り過ぎた。
「エイジ、こっちじゃない」
「送るに決まってんじゃん」
当たり前のように言われて、またあたたかくなる。
蝋燭に灯った明かりが、そらとの時間で形成された“本当の私を覆う蝋”を溶かしていくような。
「……ありがとう」
この感情は、このあたたかさは、エイジだけが私にくれる────。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
