#66 ページ17
♢
「意外と早かったね」
そらの口調は普段通り。 拍子抜けする。
……俺の考え過ぎだった？
「あー、うん」
空返事をして、焦りで渇いた喉を潤そうとキッチンに向かう。
調理台の上に、ラップがかけられた皿が置いてあった。
ハンバーグ、そらが作ったのか？
「これ、どうしたの？」
声を張って尋ねてみると、そらは見もしていないのに「手作りなんだよ」と答えた。
「誰の？」
「A」
驚愕、でもどこか腑に落ちた。
ってことはやっぱり、すれ違った彼女は……。
「……っ」
そらに聞きたいことは山ほどある。
でも今は、あの涙を放っておくことは出来ない。
俺は家を飛び出して、夜の中を走った。
*
「本当だよね……」
目に涙を溜めたまま儚く笑った。
12時を回って魔法が解ける。
ひどく切ないのに、エイジが来てくれて凄く安心している。
例えばこんな近くじゃなくて、どこか離れた場所にいたとしても、彼なら私を見つけ出してくれる気がした。
どん底から引っ張り上げてくれる気がした。
それは思い上がりなんかじゃないって、信じても良いかな。
「────話そう」
言って、彼は私の腕を離した。
決定権を私にくれたんだ。
私はそっと頷いた。
逃げる理由なんてない。
ぜんぶ、吐き出せば良い。
すべてさらけ出せるのは、彼しかいない。
「私、とっくにフラれてた」
彼らのマンションの前にある公園で二人、ブランコに座った。
なるべく重くならないように明るめに言ったつもりだったけれど、きっと無理してるってバレてるよね。
「……聞いていい？」
と、エイジがこちらを見ないまま問うてきた。
「何してたか。 ってか、どこまで、か」
どこまでしたのか。
答えられないところにも及んでいない。
「何も。……キス、だけ」
答えると、彼が深く息をつくのが分かった。
「私が途中で泣いちゃったの」
もし、あのとき泣いてなければ今頃────。
「馬鹿」
普段より少し低いエイジの声。
怒っているような声の調子。
「もっと、自分大事にしろよ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 174人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
