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「！」
と、自動ドアを潜ってこちらにやって来た住人らしき人とすれ違う。
霞んでぼやけた視界には、その人が男の人だということしか分からなかった。
泣いてること、気づかれたかな。
不意に不安になったけれど、よく考えれば関係ない。
私はマンションを出て夜道を歩きながら、声を殺して泣いた。
余計な感情がすべて涙となって出て行ってくれたらいいのに。
そうして頭を空っぽにして、どうでもいいことで笑えたらな。
ゆったりとした歩調で感傷に浸っていると、後ろから誰かが駆けてくるような足音が響いてきた。
ハッと意識が現実に戻ったとき、その足音が止んで、私は腕を掴まれていた。
心臓が跳ねる。 息を飲む。
掠れた声が空中を彷徨う。
「何で……」
驚きのままに振り返った先には何故か、エイジがいた。
「何、してんの」
♢
歩き慣れた家までの道を行く。
高校のときの友だちと近くの居酒屋で飲んで、さっき解散したところだ。
ほろ酔い程度に抑えて12時を回る前に店を出た。
勝手だけれど、今日はあまり酔ってわいわい騒ぐ気分でもなかった。
一人になるとふと考えてしまうのは、あいつのこと。
急に、一緒に帰れなくなったなんて何があったのか。
そらが関係してるのかな。
でも最近の彼女の様子からすると、二人が仲良くしてるとこなんて想像出来ない。
また余計なことで傷ついてないと良いけど、なんて思ったところでマンションに到着。
エントランスに入るとちょうど誰かが自動ドアを潜ってこちらに歩いてきたところだった。
「……？」
華奢な女の人。 Aに似てる気がする。
俯いているから髪で顔が隠れてよく見えないけれど……。
「！」
すれ違う瞬間、彼女の頬に一筋涙が光ったのが見えた。
思わず振り返る。
A、なわけないよな。
だって、こんなとこにいるはずない。
そう思うのに、過ぎった不安は一刻ごとに膨らんでいく。
……いや、まさか。
ぞわぞわと心が逆撫でられるような感覚。
心臓が早鐘を打つ。
逸る気持ちを抑えながら部屋に向かった。
鍵は開いていた。
リビングで、そらが一人ソファーに座っている。
「あ、おかえりー。 エイちゃん」
テーブルの上には溶けたバニラアイスが2つ。
白さが眩しくて、甘い香りが鼻につく。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
