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「ごめんね」
頭の中で冷静に考え事をしながら身を起こしたとき、不意にそらが言った。
いつの間にか心は落ち着いていて、涙は収まっていた。
「Aといると、いつも泣かせちゃうね」
眉を下げて息をこぼすように笑うそら。
それが演技だろうと本音だろうと、どっちだって良かった。
けれど、優しい言葉が今は棘だ。
彼の優しさに触れると責められている気がする。
気づかなきゃ良かったのに、なんて。
今まで私はそらにたくさん嘘をついてきた。
自分をより良く見せるための努力のつもりで。
嘘を嘘とも気づかなかったのは、彼じゃなくて私の方だった。
彼は、本当はぜんぶ見抜いていたのかもしれない。
見抜いた上で私に嘘をついていたのかもしれない。
────叶わない。敵わない。
彼を最低だと見切ることが出来たらどれほど楽だろう。
「私こそ、ごめん……。 たくさん困らせちゃって」
最初から、私は私を偽らなければ、あるいは上手くいったのだろうか。
彼も本心で接してくれたのだろうか。
そうして、多くいる女友達のうちの一人ではなく、その上の座に手が届いたのだろうか。
「何言ってんの。 困ったことなんかないよ」
嘘であろうと本心であろうと、そう言ってくれるのは嬉しかった。
「……今日は帰るね」
今日は、なんて言ったけれど、今後私が彼とともにここに来ることはないだろう。
そんな予感がしていた。
そらはそんな私の含みを察してか、単純に言葉をそのまま受け取ってか、残念そうな表情を浮かべた。
「分かった」
手早く支度をしてリビングの扉に手をかける。
振り向くと、ソファーに座っているそらが手を上げた。
「また」
「うん、またね」
もし私があの子だったら、玄関まで見送ってくれたのかな、なんて。
そんなヤキモチも、今さら過ぎる。
暗い廊下に出ると一層心が寂しくなった。
孤独感や虚無感が溶けた暗闇に引きずり込まれそうになる。
何の前触れもなく再び涙が込み上げてきて、喉の奥が締め付けられるように痛んだ。
必死に堪えながら歩を進め、彼らの家を後にする。
「……っ」
エントランスまで来たところで限界を迎えて、透明な雫が一粒落ちた。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
