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スーパーを出て程なくして彼らの家に着く。
重たい袋は何も言わずにそらが持ってくれた。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔されまーす」
玄関を上がるときのやり取りにも笑ってしまう。
やっぱりそらといるのは居心地がいい。
キッチンの調理台の上に買ってきたものの入ったビニール袋を置くと、そらがその中から缶のビールを取り出して冷蔵庫にしまった。
そらの前だからいつもほどは飲めないけれど、お酒が入ればこの胸につかえる何かを流してしまえる気がした。
「Aって、お酒そんな飲まないよね」
振り返ったそらの言葉にどきりとする。
彼の前でお酒を飲んだのは初めて出会った日が最初で最後だったか。
「うん。 普段はそんなに、かな」
この嘘も手馴れたものだ。
そらも疑うことなく「そんな感じする」と頷いている。
「……」
彼に嘘を重ねるたび、心が固くなる感覚がする。
本当の私を覆っていく蝋が出来上がっていく気がする。
もうきっと戻れないくらいその層は厚くなっている。
時刻は18時過ぎ。
早速作り始めることにした。
手を洗って野菜を切っている間、そらはリビングの片付けをしに行った。
聞いていたけれど本当に家の中には彼の気配しかなくて、ちょっと緊張してきた。
と、不意に片方の肩に重さを感じる。
「わ、びっくりした」
「片付け終わったよー」
その正体はそらだった。
彼は私の肩に顎を乗せて舌足らずに言う。
「早かったね」
「でしょ。 俺、頑張った」
ゆるく笑ってこちらを見上げるそら。
至近距離過ぎて、心臓が暴れて、目を合わせられない。
「だからAも早く作ってー」
甘えるような口調で言ったかと思うと、彼が両手を回してきた。
後ろから抱き締められてる。
心臓が破れそうだ。
彼の腕越しに伝わってないと良いな。
「わ、分かった。危ないから、離れて？」
何とか平静を装って言う。
そらは大人しく手をほどきながら「何か手伝う？」と訊いてくれる。
「あ、箸とかコップとか運ぶ？」
続けて問われ、私は「お願い」と答えて動かす手を早めた。
途中、野菜の盛り付けなんかをそらに手伝って貰い、二人で色々話しながら料理を仕上げる。
ただでさえ夢のような異空間なのに、こんなにも近しくなれるなんて思わなくて心臓の高鳴りは収まらなかった。
どちらからともなく話しては笑い合って、この瞬間の幸せを噛み締めた。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2020年2月15日 8時
