#10 ページ10
.
「Aさん」
心配そうな声と
遠慮がちに背中を摩ってくれる優しい手。
(陸くん……)
どうしよう。
顔、上げられないよ。
「体調悪い？」
陸くんの声に、ふるふると首を横に振る。
「本当……？ 立てる？」
陸くんの優しさが今はすごく苦しい……。
「わ、私は大丈夫」
声が震えそうでかなり小さくなってしまった。
「でも─────」
と、言い掛けた陸くんの声を遮る。
「本当に、大丈夫だから……」
すると、肩や背中の温もりがそっと消えた。
「無理、しないでね」
陸くんが立ち上がって歩き出す。
そっと顔を上げてみると
陸くんの歩調はゆっくりで
「！」
心配そうな表情で振り向いてくれた。
私は慌てて顔を伏せる。
こんな顔、見られたくない。
泣いてるところなんて、
見られたくないよ─────。
*
彼の背中が見えなくなったとき、
私は目元を擦って立ち上がった。
(遅刻かなぁ)
あれからどのくらい時間が経ったか、
自分自身でも分からない。
「……」
思わず、ため息がこぼれた。
(学校行きたくないなぁ)
そう思いつつ、
だけど重たい足を前に出して歩き始める。
と─────、
「Aさん！」
突然聞こえた声に驚いて肩を竦めた。
俯きかけた視線を上げると、
「り、陸くん!?」
何故か息を切らせた陸くんが
こちらに駆けてきていた。
(な、泣き痕とかないよね？)
もう一度頬を擦って
駆けてくる陸くんに向き直る。
「平気？」
「えっ、あ……私は平気！」
慌てて答えると
またぎこちない笑みを浮かべた。
「何で戻って……？」
陸くんは眉を下げて笑う。
「何か、心配で」
どうして陸くんはこんな時にも優しいの。
そのせいで私、また泣いてしまいそう。
「でも良かった、大丈夫そうで」
その言葉に「うん……」と返した声は
小さく震えてしまった。
「……うん、ありがとう」
言い直して、また、笑って見せる。
「行こ！」
向けられる陸くんの笑顔が眩しい。
駄目だ、って思えば思うほど
抗うように大きくなる鼓動。
私、どうしたらいいの？
行き場もなく膨れ上がった想いは
心の底で悲鳴を上げていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 433人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月1日 18時
