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翌朝、家の前にいた明日香は
これまでにないくらい明るい笑顔だった。
(あ……)
それだけでもう、ぜんぶ悟ってしまった。
「A、おはよ！
ねえねえ聞いてー！」
彼女は頬を紅潮させて、言う。
「あのね……。
私、陸くんと付き合うことになったんだ」
悟っていたのに。
分かっていたのに。
いざ告げられると、やっぱり……
“辛い”なんて言葉に
収まりきらないほど辛い。
心臓がドクドクと、嫌な音を立てる。
まるで見えない血が流れているみたい。
今すぐにでも
泣き出したい気分だった。
「……良かったね！ おめでとう！」
それだけを、ぎこちない笑顔で返すのが
今の私にはやっとだった。
「ありがとうー！
まさかOK貰えるなんて思わなくて
本当にびっくりした」
彼女は心底嬉しそうに笑う。
私の片想いは、誰にも告げられぬまま
心の奥底に沈んで
儚く終わってしまった─────。
「あ……あの、ごめん！
忘れ物しちゃった！ 先行ってて！」
言うと、明日香は「分かった」と歩いていく。
彼女の姿が見えなくなった途端、
私は糸が切れたようにしゃがみ込んだ。
「……う」
小さく嗚咽を漏らしながら
堪えていた涙を流す。
喉がぎゅうっと痛んで、
頬を伝う涙は止められなかった。
陸くん……。
私が昨日、電話に出ていたら
何を言うつもりだったの？
『どうしたらいいかな』って
どういう意味なの？
明日香と付き合ってもいいかな、って
そういう意味だったの……？
何でもいいんだ。
内容なんて。
だけどやっぱり、
逃げるまえに話せば良かった。
曖昧でふわふわとした現実だけど
一つだけ確かなことは
どれだけ後悔したって
過去には戻れないということ。
そして、心の中で思っているだけでは
伝わらないということ。
声を出して、言葉に乗せて、
やっと届くんだから。
─────私は、
そのことから逃げ出した。
だから今、こんなに後悔しているんだ。
(……戻れないのに)
両手で顔を覆い、伏せて泣いていると。
「だ、大丈夫!?」
焦ったような声と共に
ふわりと肩を支えられる。
それは、私が一番に想う人の声だった。
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年7月1日 18時
