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『恩人だから』

いつの間にかそんなふうに

彼女との間に壁を造っていた。

嫌われるのが怖くて、

離れていってしまうのも怖くて。

いつしか、

自分よりも明日香の意思を尊重していた。

それが、

まさかかえって彼女を傷つけるなんて

思わずに─────知らずに……。



私が違和感を覚えても、我慢しても、

明日香の意見を優先していたこと……

口を閉ざして黙っていたこと……

本当はぜんぶお見通しだった。

「─────やめて、って
言い出しようにも出来なくて」

と、明日香は困ったように小さく笑う。

「だから……あのとき保健室で、
Aが本当のこと言ってくれて
私は凄く嬉しかった」

内容はともかく、と付けたして。



「……」

「……」

少しだけ沈黙が落ちて

そして彼女は静かに語り出した。

「私が告白したとき……」



*



「好きです……!」

意を決して、

目の前の彼に想いを告げた明日香。

彼は凄く驚いていたらしい。

「あ、ありがとう。
そんなふうに思われてたなんてびっくり嬉しい」

陸くんはそう言って小さく笑った。



最初は伝えるだけのつもりだった。

『ごめん』と、その言葉が聞けたら

早々に退散するつもりだったみたい。

─────でも。

陸くんの笑顔を見た瞬間、

抑え込んだ欲が顕になってしまった。



「でも俺、今気になってる人が……」

それが誰なのかは容易に検討がついた。

「いいの! ……それでもいいから」

だけど譲れなかった─────。

「陸くんが一番に想うのは私じゃなくていい。
それでもいいから……」



彼女の言葉に、

考えさせて、とそこまでは持ち込めた。

「……っ」

でもそのままにしておいたら

彼はあの子のところへ行ってしまう。



そう思った。

そう思っての、発言だった。

「陸くんも片思いしてるなら
立場置き換えて考えてみてよ……」

その言葉で追い討ちをかけて

一方的な好意だと知りながら

付き合うことになったらしい。



*



「だから陸くんは、
これっぽっちも私のこと好きじゃないよ」

そう言った明日香はすべて話したことで

どこか吹っ切れたようだった。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時

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