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“明日香のこと、好きじゃない……”
そう告げた陸くんの声は
苦しげに掠れていた。
覚悟はあっても悪者になりきれていない私は
その言葉に喜ぶことなんて出来なかった。
“その事実を知ったら
彼女はどれほど傷つくだろうか”
そうは思っても、
だからと言って陸くんを責めることは、
当然出来るわけがなかった。
「……そ、そうだったの……」
陸くんに気の利いた返事も出来なくて。
結局何も出来ない自分を
“情けない”と責めた。
でも、情けないままで終わらせたくないから
いつもより少しだけ勇気を出した。
「何で私に……?」
わざわざ伝えたのか、尋ねた。
「何でかなぁー」
陸くんは、やんわりと頬を緩める。
「最低だと思われても、
Aには本当のこと
知ってて欲しかったから……かも」
はにかんだ陸くんと目が合った。
どくん、と心臓が跳ねる。
止まった時間が
動き出したような気がした─────。
*
翌日、玄関のドアを開けると門の前には……
「おはよーう、A」
そう言って満面の笑みを浮かべる、
陸くんが立っていた。
「お、おはよう!」
驚き半分、嬉しさ半分で、
陸くんの前に飛び出していく。
『あのね……。
私、陸くんと付き合うことになったんだ』
そう告げられたあの日、
家の前で泣いて蹲っていたから
たぶん彼は私の家を知っていたのだろう。
横に並んで、歩き始めたとき、
陸くんがはっきりと言った。
「俺、昨日ケジメつけた」
何に、なんて
野暮なことは聞かなくてもわかる。
でも陸くんはぼやかしたりしなかった。
「曖昧な俺にも、優柔不断な俺にも、
意味のない関係にも……」
そこで一度言葉を切ると、立ち止まった。
ローファーの底でアスファルトを鳴らし
私の目の前に立つ。
私の身長に合わせるように少しだけ屈む陸くん。
「これからは自分の気持ちに
正直でいようって決めた─────」
ふわりと柔らかく微笑んでいるけれど
その笑顔の奥には固い決心が見られた。
私も、決めなくちゃ。
想いを告げる覚悟を──────。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時