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#24 ページ24

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彼女は「わかっていた」と言うふうに頷く。

「私、気付いてたのに、
見て見ぬフリをしてきてた……」

そう言う明日香の目には涙が浮んでいた。

「Aと陸くんが……
二人で遅刻してきた日も、
何でもないような顔をしてたけど
本当は不安で不安でたまらなかった」

言葉を重ねると

溜まった涙がそっとこぼれ落ち、

その頬を伝った。



「二人が一緒にお昼食べてたことも
Aがお弁当作って来てたことも
本当は……凄く嫌だった」

それは、当たり前だ。

私が彼女の立場なら

全く同じ気持ちを抱いていたと思う。

だけど私は、そんな彼女の気持ちに

気づかないフリをしていた。

自分の感情を、優先してしまっていた……。



「私に入り込む隙間なんてなかったのに
無理矢理こじ開けて……二人を傷つけた」

彼女は真意を吐露していく。

私は気の利いた相槌も出来ず

だから、彼女の話を聞くことを徹底した。

「ごめんね……」

その言葉が優しく胸に突き刺さる。

「わ、私も、ごめんなさい」

やっとの思いでこぼれた声は

小さく震えてしまった。

「ごめんなさい……」

言いたいことは他にある筈なのに

口を開くと、そればかり。



明日香はふるふると首を横に振ると

涙を手の甲で拭って笑った。

「戻っか」

「……うん」

頷きながら立ち上がると

ぎし、とパイプ椅子が鳴った。



良かった。

良かった─────。

私の気持ちを知っていても

彼女が離れていかなくて。



保健室を出て階段を登る。

隣を歩く彼女をちら、と見ると彼女と目が合った。

私たちは自然とお互い笑っていた。

決して他意のある笑顔でなかったけれど

でもたぶん、それが─────

宣戦布告で、仲直りなんだと思う。



もう、迷わない。

私はこれからも、陸くんを好きでいるから。



*



─Side B─



保健室の扉が閉まって一人きりになると

照明の眩しさに目を細めながら

ゆっくりと目を開ける。

「……やばい」

そう呟きながら

真っ白い保健室の布団を頭まで被った。



『Aも、
陸くんのことが好き……なんだよね?』



そう言った彼女の声ははっきり覚えている。

─────実は途中から起きていたけど

俺は目を閉じて寝た振りをしていた。

彼女の問いに、

『うん……』

そう答えるAの声は聞こえていた。



頬が熱いのはたぶん、

熱のせいだけじゃない。



次、Aと会ったとき

俺はどんな顔をすればいいんだろう。

(……やばい)

今はどうしても

緩んだ頬を引き締められなかった。



.

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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時

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