#20 ページ20
.
翌朝。
会わないように、登校時間をずらしていたのに
(あ……)
何故だか今日は
朝からその背中を見つけてしまった。
─────陸くんの姿を見つけた、
その瞬間から心臓が激しく脈打つ。
(今日は一人なんだなー……)
わざと視線を落として地面を見つめても
気になって、何度も見てしまう。
追いかけたい。追いつきたい。
そんな衝動を必死で封じ込める。
振り向いてくれないかな。
気付いてくれないかな。
話しかけて、くれないかな。
都合のいい期待ばかりが膨らむ。
─────私が、突き放したのに。
少しずつ、歩調が速くなっていく。
一分でも一秒でも構わないから、
以前のように話したい。
手を伸ばせば
触れられる距離になったとき
「り─────……」
陸くん、と呼ぼうとして
でもその声が発せられることはなかった。
軽く前に出した手が空(くう)を撫でる。
ギリギリのところで、衝動を理性が抑え込んだ。
やっぱり、駄目だ。
このまま話し掛ければ
例え私が前みたいに上手く接せられなくて
もどかしくて嫌になっても、
たぶん笑ってくれる陸くんの優しさに
甘えてしまうから。
“今日だけ”“今だけ”
そんなふうに、
自分の気持ちを許してしまう。
そう思いとどまって
その場に立ち止まった。
気付かず歩いていく陸くんとは
どんどん距離が開いていく。
ちょうど今の
私たちの心の距離とリンクしていた……。
*
私はもう充分、
甘えていたのかも知れない。
“こんな私を許さないで”と
そう思って突き放しておいて
本当は心の何処かで
許されることを願っていた。
だから一瞬振り向いた陸くんの横顔が。
刹那、目が合った筈なのに
すぐに逸らされたことが。
強く、厳しく、胸に突き刺さった。
私はその痛みを、苦しさを、
今までずっと知らなかったんだ。
.
433人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「YouTuber」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時