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翌朝。

会わないように、登校時間をずらしていたのに

(あ……)

何故だか今日は

朝からその背中を見つけてしまった。



─────陸くんの姿を見つけた、

その瞬間から心臓が激しく脈打つ。

(今日は一人なんだなー……)

わざと視線を落として地面を見つめても

気になって、何度も見てしまう。



追いかけたい。追いつきたい。

そんな衝動を必死で封じ込める。



振り向いてくれないかな。

気付いてくれないかな。

話しかけて、くれないかな。



都合のいい期待ばかりが膨らむ。

─────私が、突き放したのに。



少しずつ、歩調が速くなっていく。

一分でも一秒でも構わないから、

以前のように話したい。

手を伸ばせば

触れられる距離になったとき

「り─────……」

陸くん、と呼ぼうとして

でもその声が発せられることはなかった。

軽く前に出した手が空(くう)を撫でる。

ギリギリのところで、衝動を理性が抑え込んだ。



やっぱり、駄目だ。



このまま話し掛ければ

例え私が前みたいに上手く接せられなくて

もどかしくて嫌になっても、

たぶん笑ってくれる陸くんの優しさに

甘えてしまうから。

“今日だけ”“今だけ”

そんなふうに、

自分の気持ちを許してしまう。



そう思いとどまって

その場に立ち止まった。

気付かず歩いていく陸くんとは

どんどん距離が開いていく。

ちょうど今の

私たちの心の距離とリンクしていた……。



*



私はもう充分、

甘えていたのかも知れない。

“こんな私を許さないで”と

そう思って突き放しておいて

本当は心の何処かで

許されることを願っていた。



だから一瞬振り向いた陸くんの横顔が。

刹那、目が合った筈なのに

すぐに逸らされたことが。

強く、厳しく、胸に突き刺さった。



私はその痛みを、苦しさを、

今までずっと知らなかったんだ。



.

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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時

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