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#17 ページ17

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陸くんにお弁当を作ってくるようになり、

一週間くらいが経過した。

毎朝見かける二人の背中が悲しくて

登校時間をずらすようになってからも

同じく一週間くらい経つ。

作ってきたお弁当を一緒に食べることは

最初の三日くらいでやめた。



それからは、

作ってきたものを彼女に渡し、

彼女から陸くんに渡している。

……そしてたぶん、

お昼は二人で一緒に食べているだろう。

だからお弁当は、ほとんど私の自己満足で。

陸くんとの繋がりを失うのが怖いのだ。

「……」

私は、なんて浅はかだったのだろう。

浮かれすぎていた。

いくら彼に言われたからって

最初からこんなもの、

作ってくるべきじゃなかった。




*



私はというと、教室や食堂を避けて

屋上の日陰で食べるのが

日課となり始めていた。

今日も、暑いのを堪えてアスファルトに座る。

日向よりほんの少しだけ涼しい日陰で

お弁当を広げる。

幸いというべきか、

ここで食べるようになってからは

陸くんとお昼に遭遇することはなくなった。



私以外誰もいないそこは

しん、と静まり返っていて何の気配もない。

この世界には私以外誰もいないんじゃないかと

不安になるほど喧騒から隔離されている。

私はイヤホンを耳に、YouTubeを起動した。



『どうも! すしらーめん《りく》です!』

画面の向こうで笑う、彼。

画面越しなら、独り占めできるのになぁ。

……なんて思いながら

口に運んだ卵焼きは心做しかしょっぱかった。



(陸くん……)

会いたければ会える。

そう願わなくても、会えるのに。

何で会いたくないんだろう。

こんなに会いたいのに、

どうしても会いたくない。

……けど、やっぱり会いたい。



「陸くん」

そう呼んだ声は、

動画の声に紛れて溶けたけれど

消えは、しなかった。



「!」

イヤホンが片方外されて、

ハッと顔を上げると

そこには屈んだキミが……

間違いなく、私を見据えていた。



小さな音を立てて落ちた箸も

手から滑って膝の上に乗ったスマホも

構わず、構えず、

吸い込まれるみたいに目を逸らせなかった。



「画面じゃなくて、こっち見て」

言ってから何だか照れくさそうに

不自然なほど顔を背ける陸くん。

何でここに?

何でここがわかったの?

そんな思いよりも先に、

会えたことが、話せたことが、

何より嬉しかった。

矛盾するばかりで戸惑う心も今は穏やかだ。

“今”だけは。



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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年7月1日 18時

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