#最終話 ページ45
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伝えたい。
「あの─────」
言いかけたがそれは、
そらの声によって遮られた。
「俺、そんな簡単に諦めきれない」
え？と、顔を上げて彼を見る。
そらは、あの日よりも近くにいた。
「俺頑張るから、
Aにちゃんと伝わるまで頑張るから、
だから……好きでいちゃ駄目？」
そらの濡れた前髪から覗く目が
ゆらゆらと不安げに揺れていた。
「そら……」
雨の音なんて聞こえない。
私には、キミしか見えない。
「俺じゃ、駄目かな」
気を抜いた途端に
涙がこぼれて頬を伝った。
そらが戸惑ったように狼狽える。
謝りかけた彼を制するように
私は首を横に振る。
そうじゃない。
今度こそ、ちゃんと言えるように。
「駄目じゃないよ……!!」
何度、この瞬間を夢見てきたかな。
直接キミに出逢うまえからも好きだった。
出逢った後にいつしかそれは、
本物の恋愛感情になって
中々自分に素直になれなくて
遠回りばっかりして。
でもずっと、消えなかった。
消せなかったし消したくなかった。
時には涙も流したし
辛い思いもたくさんした。
けれど、今確かに思うのは。
そらを好きになって良かった。
「私も、そらのことが好き」
止めどなくあふれてくる涙の隙間で
私は必死に伝える。
不格好だって、滑稽だって構わない。
ただ、伝えたい。
何の障害もなく伝えられるこの瞬間を
たまらなく愛しいと思う。
「……！」
ふわりと何かに包まれる感覚。
頬にかかる濡れた黒髪や、優しい温もり。
そらに抱き締められたのだ、と
理解したときにはまた、涙があふれた。
私も小さく抱き締め返すと
その肩に顔を埋める。
「良かった……」
そらの声は心做しか
震えているように思う。
「泣いてる？」
私は涙もそのままに、小さく笑った。
「泣いてないし！」
そらが先ほどの私と同じように
肩に顔を埋めてきたので、
「あー、拭いたな！」
と怒る振りをすると
「バレた？」
と、そらは笑った。
胸の奥が、きゅん、と締め付けられる。
苦しくない。
心地好い鼓動や火照る頬に
諦めなくて良かった……と思う。
大好きだよ。
……言葉にしなくても、
伝わってくる心音が愛しい。
雨が少し、強くなる。
雨が降ったら、また、ここに来よう。
キミと出逢ったここに。
いつだって、そうだ。
私の恋は雨音と共に訪れる。
これが私の、恋降る雨の日の話。
─fin─
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作者名：小桜ふわ
| 作成日時：2017年3月26日 7時
